あのときと似て非なる


「最近のプラネタリウムってこんななの?」
「すごいねぇ……」

休日の午後、テレビで流れていたプラネタリウム特集。可愛らしいデザインの寝転がれるペアシートが並ぶプラネタリウムや、お酒を飲みながら星を見れるバータイプのプラネタリウムなどなど。どれもこれもオシャレで、大人がゆったりと楽しめそうなものだった。
……あんなふかふかそうなペアシートで横になってたら私絶対寝ちゃうよ。

「昔行ったよね、プラネタリウム」
「行ったね!高校のときだっけ?」
「たしかそう……あれだ、ペアルック事故のやつ」
「あぁ〜…!事故ってなによう」
「あれは事故じゃん?」

横でケラケラと笑う倫太郎を見て、私もしっかりと思い出した。

高校2年の秋に一度だけ2人でプラネタリウムに行った。テレビでやっているようなオシャレなプラネタリウムではなく、子供向けのところ。もしかしてあの頃も探せばオシャレなプラネタリウムもあったのかな。
まだ付き合い始めてそんなに経っていなくて、デートできる日は前日からすっごく緊張してたっけ。寝坊しないように、それこそプラネタリウム中に寝ちゃわないように早めに寝たりして。まぁ、結局楽しみすぎて早く起きちゃったから睡眠時間的には変わらなかったんだけどね。
それでいざ待ち合わせ場所に行ってみれば、倫太郎と服装がそっくりだったのだ。お互いに頭から爪先までじっと眺めて一瞬固まってしまった。お互い、カーキのパーカーに黒いボトムス。嘘でしょ?ってくらい揃っていた。

「え!やば!?」
「……こんな揃うことある?」
「角名どっかから見てた?」
「見てねぇよ、ミョウジこそ見てたでしょ」
「見てないし!ペアルックじゃん恥ずかし〜!」

デート前の緊張なんて一気に吹っ飛んでお腹を抱えてゲラゲラ笑ったとこまで覚えている。……思い返してみれば確かに事故だなぁ。正直その後のプラネタリウムの記憶が薄いもん。ペアルック事故強すぎた。

「久しぶりに行きたいな、プラネタリウム」
「行く?」
「え!行く!!パーカー着てこ!」
「えー……?」
「ペアルックで!」
「……この歳でペアルックは恥ずかしくない?」
「いいじゃん、しようよー」
「……ナマエ、パーカー持ってたっけ」
「ない!から、今から買いに行こう!」
「は?今から?」

そう!準備して〜とソファから倫太郎を強制的に立たせてクローゼットの方へと背中を押す。なにやら文句を言いたげだが気にせず私も準備に取り掛かる。
今から出かけるのなら、ついでに夕飯も食べて帰っても良いかもしれないなぁ。

お互い軽く準備をして、大きめのショッピングモールへと向かった。電車に揺られること約20分。休日とはいえもう日も暮れ始めているからか、電車もモール内もそこまで賑わってはいなかった。
お目当てのパーカーは、カジュアルなメンズ服もレディス服も取り扱っているお店で探すことにした。

「色どうしよっか、またカーキにする?」
「うーん、ナマエは明るい色も似合うからこっちもいいんじゃない?」
「……この色、倫太郎じゃない」
「……俺もそう思う」

倫太郎が私にあててくれたパーカーをそのまま倫太郎にあててみれば、なんだか違和感がすごくて2人して吹き出してしまった。似合わないわけじゃあないんだけど、なんか違う。

「無難に黒とかグレーは?」
「無難だね」
「合わせやすいし」
「じゃあ黒かな」

明るい色のパーカーと黒色のパーカーを取り替えてみると、やはりしっくりくる。こっちだね。
パーカーの色が決まったところで「下どうしようかな」と倫太郎が小さく呟いたのを私は聞き逃さなかった。なんだかんだペアルックに乗り気なってくれているらしいのが分かり、ニヤつくのを抑えきれずにいるとそれに気付いた倫太郎はじとりと睨みながら小突いてきた。そんなちょっと照れたような顔で睨まれても怖くも何ともないもんね!

そのあとは、モール内をぷらぷらして夕飯も済ませて帰ってきた。あのお店初めて入ったけどパスタ美味しかったなぁ……。

「ナマエ、ちょっとこっち」
「ん?」

帰宅後、のんびりしていたところで倫太郎に呼ばれてそちらに向かえば横に座るよう促される。倫太郎の冷たい右手がするりと頬を滑り、顔にかかっていた横髪が耳の後ろへと除けられた。ここまで無言。視線は耳へと注がれている。

「りんたろ、?」
「痛かったらごめん」
「え?」

キスでもされるのかと思っていれば、痛かったらごめんと謝られてしまい頭にはハテナが浮かぶ。え、痛いって何?無意識に身構えてしまう。
すると身体ごとこちらへと近づいてきて、思わず目をぎゅっと瞑った。耳に添えられた手に少し力が入り、耳朶に違和感。カチリとした音と同時に少しの衝撃を感じた。……あ、もしかして。
離れていく倫太郎の顔を見上げるように首を傾げれば、顔の横で何かが揺れる。

「ピアス……?」
「そう、反対も着けさせて?」
「え、うん」

反対の耳も先ほどと同じように、耳朶にはピアスホールにピアスが入っていく違和感とピアスキャッチがカチリとはまる少しの衝撃。「できた」と言って身体を離した倫太郎は、満足そうにこちらを見て微笑む。

「痛かった?」
「ううん」
「似合ってるね、見てみて」
「……あ、星だ!」

いつの間にか用意されていた手鏡に私が映され、耳には動くたびにチラチラと光るピアスが垂れ下がっていた。よく見れば小さな星が付いている。シンプルで、私好みのデザインだった。かわいい……。

「どうしたのこれ?」
「今日見つけた、プラネタリウム行くとき付けてよ」
「……貰っていいの?」
「返されても困るんだけど」
「ふふ、ありがとう!」
「うん」

手鏡をもう一度顔の前に持てば、頬が緩みきった自分の顔が映ってちょっと萎えた。
けれど、ピアスを見ればそちらに意識は全て持っていかれる。
ゆらゆらと頭を左右に揺らすと一緒に揺れて光るピアス。プラネタリウムにもぴったりだ。それにしてもいつの間に買ってたんだろう……。
もう一度「ありがとう」と伝えると、倫太郎は微笑んだまま私の頬をゆるく撫でた。

「プラネタリウム、どこにしよっか」
「あのペアシート可愛かったな〜!」
「でもナマエ、あの寝心地良さそうなペアシートだと寝そうだよね」
「……私もそう思ってた」
「ははっ、じゃあだめじゃん」

スマホでプラネタリウムを調べ始めた倫太郎の肩に頭を乗せて、横目でスマホを覗く。顔を傾けたことで揺れて微かにシャラリとピアスが鳴った。その音がなんだか可愛くて、嬉しくて。倫太郎の肩にぐりぐりと頭を押し付けてわざと揺らした。

「ちょっと、痛いんだけど」
「私も頭痛くなってきた」
「バカなの?」
「ピアス鳴るの聞いてたの」
「俺にもシャラシャラ聞こえてるよ」
「ほんと?じゃあもっと鳴らそ」
「鳴らさなくていいからプラネタリウム見て」
「ふふ、はぁい」

ほら、とプラネタリウムが特集されたページをゆっくりとスクロールし始める。オシャレなところ、こんなにあるんだぁ。……うーん、やっぱりこのペアシートが可愛い。

「やっぱここがいい?」
「え!?」
「ふっ、目輝いてんだもん」

じゃあここにしよっか、と笑われた。雲みたいな、ふかふかそうなペアシート。

「寝ないようにがんばる」
「ははっ、フラグ」
「フ、フラグはへし折る!!」
「あんま期待しないでおくよ」

ひどい言われようだ。絶対寝るもんか。ぐりぐりとまた肩に頭を押し付けてやる。

「やめろって」
「ふふ、楽しみだなぁ〜!」
「ね」

あのときとは違って、今度は前もって合わせたお揃いのパーカーで行くプラネタリウム。
あのときより大人になって、デートのたびに緊張なんてしなくなってしまったけれど、その分近づいた2人の距離。

肩に乗せた頭をぽんぽん、と二度撫でられて軽く揺れたピアスがまた可愛く鳴った。

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