暑くてマヌケな



「絶好のデート日和!」
「うわ、暑そ……」
「夏だからね、そこは諦めよ」
「なんで夏生まれなの」
「それは私に言われても困っちゃうなぁ!」

朝起きて、シャッとカーテンを開ければ眩しすぎるくらいの太陽の光。雲ひとつない快晴だ。
今日は前々から計画していた水族館デートの日だった。もうすぐ私の誕生日だからと、倫太郎を私のわがままに付き合わせる日、とも言う。暑さが苦手な倫太郎には悪いと思いつつも、イルカショーで濡れるのはやっぱり夏がいい。屋内を選んだだけ褒められたい。水族館涼しいし。
天気の良すぎる窓の外を恨めしそうに睨む倫太郎に準備を急かして、水族館へと向かった。


>>>


あぁそうか、もう世間は夏休みなのかぁ……。
水族館内は親子連れが多くて賑やかだった。走り回るちびっ子を避けながら、館内を進んでいく。

「見てアレ、ナマエにそっくり」
「どれどれ〜……って間抜けヅラじゃん?!」
「眠いときのナマエそっくり」
「えっ、あんな顔してるの?やば……」

間抜けヅラな魚を指差しながらケタケタ笑う倫太郎の脇腹を小突くも、ツボに入ったらしく笑い続ける。
え、本当に眠いときの私ってこんな顔してるの?心配になってきた。
一頻り笑い終えた倫太郎は「写真撮っとこ」と言ってスマホを水槽に向けて魚を撮っていた。他にも間抜けヅラをした魚を見ては笑って写真を撮る倫太郎。
……なにがそんなにお気に召したの?

「あ!そろそろ席取り行かなきゃ!」
「席取りってイルカショーの?」
「そう〜前取るよ前」
「え、濡れるじゃん」
「そのために来たんだよ?」
「……まじ?」
「まじまじ」
「え〜〜」
「涼しくなるよ!」
「そんな涼しさは求めてねぇ」
「はいはーい」

嫌がる倫太郎の背中をぐいぐい押して、イルカショーへと向かう。
もうすでに人は入っていたが、前の方に空いている席を見つけた。ラッキー!
俺後ろに座ってるから、と言って最後列に留まろうとした倫太郎を前列まで下ろすのは大変だった。
カッパも着て、準備万端。今度はカッパが暑いと文句を言ってくる倫太郎。別に脱いでも良いけどずぶ濡れになるよ?

時間通り始まったイルカショー。超盛り上がったし超濡れた。最初はちょっと引いた感じで見ていた倫太郎も、容赦ない水の掛け方に途中からゲラゲラ笑っていた。

「はぁー!楽しかった!濡れた!」
「こんなに濡れるなんて聞いてねぇんだけど」
「外歩いてればすぐ乾くよ」
「涼んだけど結局暑くなるじゃん……」
「まぁまぁ!でも楽しかったでしょ?」
「……まぁね」
「でしょー!」

びしょびしょになったカッパを捨てて、屋外へと出た。ここの水族館の屋外は少し遊園地のようにもなっている。

「パンダ乗ろ?」
「……1人で乗って」
「ちぇー」
「ちょ、ナマエ、後ろ」
「わっ」

ぐいっと繋いでいた手を引かれて、よろける。倫太郎に抱きとめられながら振り返ると、どでかいパンダに見下ろされていた。逆光のどでかいパンダはちょっと怖いな……。
軽く頭を下げると、パンダが手を差し出してきた。

「?」
「それ、ナマエにくれるんじゃない?」

それ、と指したのはパンダの手から伸びる紐。目線を上げるとパンダの頭上でふよふよと風船が浮いていた。倫太郎の言葉を聞いて大きな頭を上下に振るパンダ。通訳できる倫太郎が可笑しくて吹き出しそうになったのをグッと堪えて風船を受け取る。
パンダに礼を言って、歩き出そうとしたら今度は倫太郎にパンダの手が差し出された。

「……なに、俺にもくれんの?」
「ぶふっ……」

また頷くパンダ。静かに風船を受け取る倫太郎を見て、堪えていた笑いは盛大に口から漏れた。なんで会話できてんのよ……!
倫太郎に風船を渡して満足したのか、パンダは去っていった。

「いつまで笑ってんの」
「っふ、だってパンダと会話してるし風船似合わないし…!」
「……ナマエにあげる」
「倫太郎にくれたんだから倫太郎が持ってなよ」
「似合わないって笑ってるくせによく言うよ」
「あははっ!」

片手に風船を持って、もう片手は繋いでいる私たち。きっと周りから見たらちょっと間抜け。
まぁ、夏休みだし?遊園地だし?こんなのもアリだよね。

帰りに寄ったお土産屋さんで、あのパンダのキーホルダーを見つけて思わず吹き出して、近くにいたちびっ子に凝視されてしまった。パンダは記念に2匹買って帰り、2人で家の鍵に付けている。
しばらくは揺れるパンダを見るたびに思い出し笑いする日々だった。
ちなみに倫太郎は、あの間抜けヅラの魚が相当気に入ったらしく、いつの間にか待ち受け画面に設定されていた。……私の眠いときの顔と並べるのやめてよね。






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