泣き止んだなら笑顔を見せて


朝、起きるとなんだか体が重くてだるい。季節の変わり目というのもあるのだろうか、最近気分も沈みがちでスッキリしない日が続いていた。

「ナマエ〜?起きとう?」
「……おはよ」
「……どないした?」
「ん?」
「気分悪いか?」

寝室を覗いてきた治はそっとベッドに寄り、私のおでこを触って「熱はないなぁ」とホッとしたように呟いた。
なにも言ってないんになんでバレるん?寝起きでボーッとしとるんはいつものことやのに。
なぜか鼻の奥がじんとしてきてしまい、ベッドから身を乗り出して目の前の治の胸に飛び込んだ。

「おっと、」
「なんか、なんかしんどい」
「そないな日もあるなぁ」
「うぅ……」

しくしくと泣き始めた私の背中を、治は何も言わずに撫でてくれた。優しく、心地良いリズムで撫でてくれるその手が愛おしくて、それが余計に涙腺を刺激してきてどんどん涙が溢れてきた。なんで泣いているのか自分でも分からなくて情けないけれど、今日は仕事も休みだしこのあと目が腫れようが関係なくて、涙を止めようとはしなかった。

「よっこいせ」
「、わ」

少し涙が落ち着いた頃、治がベッドであぐらをかいてその上に私を乗せた。驚いて下にある治の顔を見つめれば「鼻真っ赤や」と笑いながら、鼻をむぎゅっと摘まれてしまう。離して、と首を横に振っても離してくれない。

「フッフ、泣き止んだな」
「離してやぁ」
「変な声〜」
「アホぉ」

確かにいつの間にか涙は止まっていた。でも、鼻を摘まれている所為でいつもと違う間抜けな声が出てしまい、それを楽しんでいる治にムッとして口をぎゅっと結ぶ。離してくれるまで喋らへん!
そんな私をまだ楽しそうに見ている治にさらにムッして、じとりとした視線を向けた。

「そんな顔もかわええなぁ、真っ赤なお鼻食べたろ」
「!?」

鼻を摘んでいた指の力が抜けたと思えば治の顔が近づいてきて、かぷりと鼻を甘噛みされた。驚いて固まっていると、噛まれたところにぬるりとした感触が襲い、肩が跳ねた。鼻、舐めっ……?!

「っなにしとん!」
「可愛い鼻食べた」
「意味わからん……」
「お口も食べてええ?」
「は?!っちょ、んん」

食べる、という表現がまさに当てはまるように、ぱかっと開いた口が私の口を塞いだ。かぷかぷと何度も角度を変えて食べられる。何度も食べてくるわりに、それ以上深くは食べてこないことを少し物足りなく感じてしまい、ねだるように治のTシャツを握った。それを感じ取ったのか、治は軽く笑ってから先ほど鼻を舐めたそれで今度は口内を舐め回した。くちゅ、と先ほどとは違う水音が耳を支配していく。

「ん、ふぅ」
「っは」
「んん、っ」

口内を舐め尽くして満足したところで口は離された。つぅっとお互いの口から伸びた銀糸は、重力に逆らうことなく沈んでいって、ぷつり。私のパジャマのズボンに吸い込まれていった。泣いた後なのもあって、息がなかなか整わない。頭を治の肩口に預ければ、また優しく撫でられる。治の大きな手はどうしてこんなにも落ち着くんだろう。いつも美味しいおにぎりを握っている、この大きな手。
昔から優しい撫で方だったけれど、おにぎりを握るようになってから更に優しくなった気がする。それほどおにぎりを丁寧に扱っているのだと思う。勝手な想像だけど。
治の大好きなおにぎりと同じくらい、私のことも丁寧に優しく扱ってくれているのだと思うと嬉しくなる。
おにぎりと一緒で嬉しい?と思う人もいるやろうけど、治のおにぎりへの愛を知っている私はそんなこと1ミリも思わへん。

「そろそろ朝ご飯食おか」
「朝ご飯なに?」
「新作のおにぎり味見して欲しいねん」
「え!やった!」
「ふっ、やっと笑たな」

頭を撫でていた手が頬に移動して、そっと私の顔を包み込んだ。そのままおでこをこつん、と付けて近距離で治に見つめられる。

「泣いてても怒っててもかわええけど、やっぱナマエの笑てる顔が1番好き」
「へへ」
「しんどい日は無理せんでゆっくりしよな」

私も治の顔を手で包み込んで、今度は私から治へ軽くキスを落とした。
しばらく悩んでいた沈んだ気持ちは、大好きな治によって一瞬でどこかへ飛んでいった。



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