おひざでひと息つきましょう



「ただいまぁ……」
「あ、おかえり!おつかれさま〜」
「ほんっまに疲れた……」

地方でのイベント出店を終え、大きな荷物を抱えて帰ってきた治はよれよれだった。いつも通りおにぎり宮の営業もこなしながら週末は2週連続でイベント出店と、疲れるに決まっている。軌道に乗ってきた今が頑張りどきなのはわかるけれど、近くで見ている身としてはとても心配だった。私にできることはないものか。

どさりと荷物を置いて畳の上で胡座をかいた治に冷たいお茶を出し、私も並んで座る。お茶を啜って、目頭を揉みながらイベントでのことについて話す治を見て、ふと思いつく。
治の話を聞きながらキッチンへと戻って1枚のハンドタオルを濡らしてレンジに突っ込んだ。ええと、40秒くらいかな。
チン、と鳴ったレンジから温まったタオルを取り出せば、思ったよりもアツアツになってしまっていた。これは熱すぎる。少し冷まそうとハンバーグの空気抜きのように片手と片手でキャッチボールさせながら治の横へと戻った。

「はい、ごろーん」
「ん?!」

治がお茶を持っていないことを確認してから、ぐんっと肩を引いて、正座した私の太腿を枕に無理矢理寝かせる。腿の上にある顔を見下ろすと、急なことに状況が飲み込めていないのか目をぱちくりとさせていて笑ってしまう。無理矢理すぎたかな。

「目ぇ瞑って?」
「え、あ、ハイ」

恐る恐る閉じられた瞼に先ほど温めたタオルをそっと乗せれば口元も緩んで、ほう、と気持ちよさそうな声が漏れた。頭とこめかみ辺りを指で押して軽くマッサージ。良い感じに効いているのか、あーだのうーだの言っている。

「タオルまだ温かい?」
「おー」
「冷めた?」
「おー」

目元と一緒に頭も蕩けたのか、おー、としか返事が返ってこない。どっちなのか分からず触ってみれば、もう温かいとは言えない温度だった。もう、早く言ってよ。
タオルを外して、今度は目元を軽くマッサージ。眉頭から、目の窪みに沿って優しく押していく。

「あー……寝そう」
「ふふ、寝てもいいよ、おつかれさま」
「まだやることあんねん……」
「今日はもう休んじゃいなよ」
「うーん……」
「わ、」

ぐりん、と寝返りを打って私のお腹に頭を押し付けてくる様子はまるで犬みたい。なんとも大きなわんちゃんだこと。
わしゃわしゃ頭を撫でてやれば、もっと、と言わんばかりに今度は手に頭を押し付けてくる。普段、治の頭を撫でることってあまりないから新鮮だ。いつもは私が撫でられてばかり。治の大きな手は触れられるだけで落ち着く。

「ナマエのにおい……」
「え、くさい?」
「ちゃう、すき」
「ちょ、嗅ぐな……!」
「いやや」
「私がいやや!こら!」

嗅がれないように頭を離そうと思えば、投げ出されていた両腕でがっしりと腰をホールドされてしまい逃れられない。すぅ、っと思いっきりお腹辺りを吸われて、とんでもなく恥ずかしい。まだお風呂に入ってないのもあって、本当に臭くないのか心配でもある。

「5分経ったら起こしてくれ」
「え、このまま寝るの?」
「寝てええ言うたやん」
「はい……」

寝てもいいとは言ったけど、顔こっち向きでホールドされながらとは聞いてない。ローテーブルに置いていたスマホになんとか手を伸ばしてタイマーを5分にセット。5分と言わず、ちゃんと寝ればいいのに。絶対5分後に起こしても、あと5分〜とか言って伸びるでしょ。
なんて考えながらも、ちょっとして寝息が聞こえてきたのを良いことに、カメラを治に向けてシャッターを切った。これは犬というより赤ちゃんみたいだ。顔が見えないのが残念。
タイマーが鳴るまでの間、片手でスマホをいじりながらもう片手で治の頭を撫で続けた。

「治、5分経ったよ」
「んん〜……」
「起きてー」
「あと5ふん……」
「言うと思った……でも足疲れたから降りてー」
「いやや」
「もー!落とすよ!?」

撫で撫でからシフトチェンジして治の頭をペシペシ叩けば「いやや〜」と駄々を捏ね始めて起き上がってくれそうにない。しかしこちらも脚が限界を迎えかけている。
仕方なく治の頭を浮かし、隙間からなんとか脚を伸ばして脚が痺れるのを回避した。……回避はできてない、ちょっと痺れてる。

「もうちょっと膝枕堪能させてや」
「親父くさいこと言わないでよ……」
「毎日これで寝たいわぁ……」
「さすがに毎日は無理だけど」
「けど?」
「頑張ってる治くんには、たまにならしてあげる」
「フッフ、そら毎日頑張らなあかんなぁ」

へにゃりと笑って手を私の頬に伸ばしてくる治。それに応えてあげようと、背中をぐっと丸めてキスを落とした。

たまになんて言ったけど、膝枕で治の疲れが癒やされるならいつでもしてあげるよ。いつもお疲れさま。




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