重なる願いを、星に


「信介ー!お昼!」

お弁当を掲げ、声を張って畑の向こう側にいる信介に声を掛ければ片手を上げて答えてくれた。それにしても今日は蒸しているなぁ。じめじめとした不快感が身体に纏わりつく。

「ありがとう」
「今日のおにぎりは治くんのやよ」
「そうなん?」
「おん、さっき持ってきてくれてん」
「ほぉか」
「信介に会っていき、言うたのに帰ってもうたわ」
「あいつも忙しからなぁ」

きちんと手を合わせていただきますをする信介に倣って、私も隣でいただきますをして食べ始める。お腹すいたぁ。
大きく口を開けておにぎりにかぶりつけば、程よい塩気が口に広がった。ふんわりと握られたうちのお米がとても美味しい。

「夜には晴れるやろか」
「どうやろな」

今日は7月7日、七夕だ。しかし、空は曇天。分厚い雲が空を覆っている。朝の天気予報では、お姉さんが夜には晴れると言っていたがどうなんだろう。風もあまり吹いていないから、この分厚い雲がどこかへ行ってくれそうにもない。せっかく七夕飾りも飾ったし、晴れて欲しいなぁ……。

「ごちそうさん」
「はーい」
「あんま張り切りすぎたらあかんで」
「大丈夫やって」
「気ぃつけて戻りや」
「ふふ、はーい」
「ほなな」
「午後も頑張ってな〜」

私の頭と膨らんだお腹を優しく撫でて仕事へと戻っていく信介の背中を見送った。お父ちゃんは心配性やねぇ、とお腹に話しかければ、本当にねと言わんばかりに内側から蹴られて、声を出して笑ってしまった。君もそう思うか、そっかそっか。

物理的に重い腰を上げて家へと戻り、庭に飾られた笹を眺めながら家事を済ます。
笹の葉と折り紙で作られた色とりどりの飾りが柔らかく揺れて、サラサラと音を立てている。
そういえば、みんな短冊にどんなこと書いたんだろう。信介はもちろん、治くんをはじめとした昔のチームメイトが遊びにきたときに書いていってくれていた。沢山の短冊のおかげで七夕らしさも増している。でも遊びに来てくれた人数よりも短冊の数が多いような……?
ちら、と1枚捲れば『商売繁盛』と大きく書かれた短冊。端っこには『治』。ふふ、シンプルでよろしい。もう1枚捲ってみると信介の字で『豊年満作』と書かれていた。……短冊って四字熟語で書かなきゃいけない決まりでもあったっけ?でも豊年満作は大事やね、私からもお願いしとこう。
……あれ?豊年満作の短冊の隣にもう1枚信介の文字が見えた。そこに書かれていたのは『母子共に健康で産まれてきますように』の文字。
もしかして、と枚数の多い気がした短冊を全部見てみた。短冊は1人2枚ずつあって、それぞれの願い事ともう1枚、どれもお腹の子が元気に産まれてきますようにという旨の願いが書かれていた。

私も君もこんなに想ってもらえて幸せものやねぇ。元気に産まれてこなあかんよ。

大きく円を描くようにお腹を撫でてやれば、また蹴られる。
ふふ、ちゃんとお母ちゃんの声届いとんねんな、お返事できてええ子やね。
偶然かもしれないけれど、きっと届いている。

よっしゃ、張り切って夕飯作ろうかな。

▽▲▽

日が暮れて、畑仕事を終えて帰ってきた信介。夕飯の準備をしていた私の元へふらりと寄って、お腹を撫でてから着替えに行く。これはお腹に命を宿したと分かってからの帰宅後ルーティンだった。

「せや、外晴れとるよ」
「え!ほんまに?!」
「おん、もうちょいしたら星も見えてくるんちゃうか」
「やった!」

夕飯は野菜を星型に切ったりして、ちょっと七夕っぽくしてみたり。信介も楽しそうに食べてくれて嬉しかった。

「天の川や〜!」
「おぉ、綺麗やな」

夕飯後のデザートに頂き物のフルーツを縁側で夜空を見ながら食べよう、と縁側に出てみれば、夜空には光の帯が眩しく輝いていた。

「来年は3人で見ような〜」
「せやな」
「あ、短冊!見たで、ありがとうな」
「あれな、俺が言うたわけちゃうねんで」
「そうなん?」
「おん、あいつらが勝手に書いっとった」
「せやったんや、ありがたいなぁ」
「ほんまにな」

愛おしそうにお腹を見つめながら撫でる信介の手に自分の手を重ねて、この子が元気に生まれてくるように天の川に願った。



2021.7.7

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