星祭りの逢瀬


7月7日、七夕。仲が良すぎたせいで仕事をしなくなり、離れ離れにされた織姫様と彦星様が天の川を渡って会える日。年に一度しか会うことができない2人。雨が降ったら天の川は渡れへんくて、せっかくの年に一度のチャンスもなくなるかもしれへんって、結構ひどい話やと思わん?
私と倫太郎だって遠距離だけれど、1年に何回も会えるし、雨が降ったって会える。でも天の川みたいに、すぐ会える魔法の橋はない。まぁ、新幹線使えばビュンやけど。

さて、そんな七夕である今日。バイトを終えた私は静岡行きの新幹線に乗っていた。会う約束はしていない。私のただの突発的なアレ。だ
って天気予報によれば今日は大阪も静岡も晴れだから。
天の川は掛かってくれるのだ。
大阪から静岡までは約2時間。着くのは18時くらいだろう。鍵を貰っているとはいえ流石に約束していない日に突然押しかけるのはよろしくないので、静岡に着いたら連絡しとこうかな。今日も練習あるって言ってたし。

▽▲▽

まもなく静岡に到着します、という車内アナウンスで目が覚める。いつの間にか寝ていたらしい。寝起きでぼーっとする頭のまま、倫太郎に「静岡着く」とだけメッセージを送信しておいた。まだ練習中だと思うからすぐには返信は来ないだろう。中途半端に寝てもうたから眠いなぁ……。
ぐっと伸びをしてから、荷物をまとめて降りる準備をした。本当に突発的に来たから荷物も少ない。トートバッグひとつで新幹線に飛び乗った。日帰りのつもりだし。
新幹線を降りて、改札を出たところでスマホが震える。倫太郎からの着信だった。連絡くるの思ったよりも早かったなぁ。

「もしもし?」
「今どこ!?」
「新幹線降りたとこ!」
「……まじで来てんの?」
「まじまじ。チラッとでええから会えへんかなぁて」

電話の向こうから大きなため息が聞こえてきて、やはりまずかっただろうか、と今更ながら不安になる。1人でご飯でも食べて帰ろかな。

「俺の家分かる?」
「あー、たぶん?」
「タクシー使って先帰ってて、うちの鍵持ってる?」
「え、まぁ持っとるけど……」
「俺がこれから迎えにいくより早いだろうから」

私が返事をするよりも先に、じゃああとで、と言って切られてしまった。……会ってくれるらしい?
よくわからぬまま、とりあえず言われた通り家に向かおうと思う。倫太郎の家は、確かトーク履歴に住所が残っていたはず。タクシーを捕まえて、トーク履歴を遡って住所を伝えた。

「あ、」

20分ほどすると窓から見える景色が見覚えのあるものへと変わり、マンションの前には倫太郎がいた。1ヶ月ぶりに見るその姿に自然と頬が緩む。タクシーが停まるとこちらに寄ってきて、運転席のドアのノック。その姿を見て、倫太郎の背じゃタクシーの窓ノックするのにもそんなに身体丸めなあかんねんなぁ、とくだらないことを考えてしまった。
ガチャ、と私の横のドアが開いて我に帰る。

「ナマエ、行くよ」
「へ、あ、待ってお金……」
「もう払った」
「は?!」
「早く降りないと、運転手さんの迷惑でしょ」
「あ、え、はい」

私の方に伸ばされた手を取り、運転手さんにお礼を伝えてからタクシーを降りた。……私が見惚れているうちにタクシー代を払ってくれていたらしい。いくらだったのか、払わせろと詰め寄ったけれど綺麗に躱されてしまった。私が勝手に来たんやから、私が払わなあかんやろ……。迷惑に次ぐ迷惑をかけてしまい、上がっていたはずのテンションがしゅるしゅると萎んでいく。

「荷物それだけ?」
「……突然思い立ってもうたから」
「ふっ、そっか」
「……ごめん」
「なにが?」
「突然来て迷惑やったやろ……?」

部屋に着いてそう謝れば、繋いでいた手を優しく引っ張って抱きしめられた。倫太郎の匂いがぶわっと強くなって、夢じゃなくて本物の倫太郎が目の前にいることを実感する。

「彼女が会いに来てくれて迷惑なわけないじゃん、来てくれてありがと」

なに凹んでんの、と笑いながら頭を撫でてくれる。迷惑じゃないと聞けてホッとして、倫太郎の背中に腕を回して思いっきり抱きしめ返した。

「で?突然どうしたの」
「……七夕やから?」
「なにそれ」

大真面目に答えたのにケタケタと笑われてしまった。笑うなや、という意を込めて頭をぐりぐり胸に押し付ければもっと笑われる。なんやねん。
でも笑った顔が可愛くて、むっとした気持ちなんてどこかへ飛んでしまう。毎日連絡はとっているけれど、やっぱり直接会って顔が見れて、触れられるというのは嬉しい。……今日は短い時間やけど、せっかく会いに来てんからたくさん触れたいなぁ。

「明日休みだっけ?泊まってくでしょ?」
「え!泊まってっていいん?」
「どっか違うとこ泊まるつもりだった?」
「ううん、日帰り」
「は?」

うわ、その目やめて。眉を顰めてバカじゃないの、って目ぇしとる。だってほんと押し掛けたようなもんじゃん。てか押し掛けてるじゃん。
でも泊まって良いならもちろん泊まっていくけども。前回来たときに予備として1セット下着を置かせもらっていて正解だった。服は何か借りようっと。


夕飯はどこか食べに出るかと聞かれたが、倫太郎も練習で疲れているだろうし私も移動でちょっぴり疲れていたから、最近倫太郎がハマっていると言っていた鶏肉料理が美味しいお店のデリバリーをとっておしゃべりしながらのんびり食べた。ヘルシーやのにジューシーかつボリューミーでむっちゃ美味しかった、お腹いっぱい。ヘルシーやからって食べすぎた。

「なぁ、ちょっとお散歩行きたい」
「散歩?……あー、じゃあついでに朝ご飯買お」
「やった!」

お腹いっぱいで眠くなってしまいそうだったからお散歩。まだお風呂も入っていないし、ちょうど良いだろう。財布とスマホだけ持って2人で外に出れば、もう夜だというのにむわっとした暑さが体に纏わりついて、あっという間に夏が来ていたことを全身で感じる。今年の夏はどんな夏になるんやろな。

「ナマエ、上見て」
「……わ、すご」

マンションの敷地を出たところで倫太郎に言われて上を見上げれば、そこには白く滲んで光る天の川が夜空をくっきりと二つに区切っていた。やけに明るいと思っていたらこの所為か。倫太郎に会えてからすっかり天の川のこと忘れてたわごめん。
それにしても綺麗やなぁ……。

「織姫様と彦星様もちゃんと会えてそうやね」
「ふっ、そうだね」

良かった。ちゃんと私も会えたで。お互いゆっくり今日を楽しもな。なんて心の中で織姫様へと声を掛けた。
でも私は明日まで倫太郎と居れるけど、織姫様は今日だけなんよなぁ……辛いよなぁ……。天の川を眺めながら、無駄に織姫様の気持ちになってしまい、思わず繋いでいた手に力が籠る。

「なぁ、私と1年に1回しか会えんかったらどうする?」
「なに、いきなり」
「なんか織姫様の気持ち考えたらしんどなった」
「……バカじゃん?」

こっちはわりと真面目に考えてしんみりしとったのに。バカ言うなアホーー!と、繋いだ手をぶんぶん振ってコンビニへと向かった。またケタケタ笑いながらも一緒に手をぶんぶん振って歩いてくれる倫太郎にニヤける顔を抑えきれない。コンビニでは適当にいくつかパンを買って、手を繋いで天の川を見ながら帰った。

私と倫太郎も織姫様と彦星様みたいに、周りから仲睦まじすぎてちょっと離さなあかんわって呆れられるくらいになれるやろか。いや、仕事はちゃんとするし意地でも離れへんけどな?

「あっつ」
「もうすっかり夏やなぁ」
「風呂入る?」
「入る〜」
「一緒に?」
「へ!?あー、う、はい、る……」
「入るんだ」
「な!からかったなアホ!」
「からかってねぇよ、入ろっか」
「いやや入らん!」
「入りまーす」
「ぎゃー!抱っこすんなアホ!」


星が輝く時間は、まだまだこれから。



2021.7.7

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