あした天気になあれ


「うわぁ、土砂降り」

目が覚めてカーテンを開けてみれば朝だというのに外はどんよりと暗く、地面には大粒の雨が叩きつけられていた。ばちゃばちゃと音を立てて降る雨に、出勤する気力も奪われてしまいそうだ。
この雨の中行きたくないなぁ……。
まだベッドですやすやと気持ちよさそうに寝ている研磨のおでこにそっとキスをして寝室を出た。

朝ご飯を食べようと思ったけれど、胃が重たく感じてあまり食べる気にならない。
まぁ、胃が重いのは雨のせいでも低気圧のせいでもなくて昨日食べすぎただけなんだけどね。
昨日は久しぶりに研磨と晩酌して、だらだらと遅くまで飲み食いしていたからその所為。お酒は今日に残ってしまわないようにセーブしたけれど、おつまみは止まらなかったからなぁ。お取り寄せした缶詰やチーズがとっても美味しかったの。
美味しいのが悪い、なんて考えながらインスタントコーヒーを啜った。

支度が終わって家を出る時間になっても雨足は弱まらず、ますます出勤する気が失せていく。出勤しない訳にもいかないので、頑張って行くけれども。これは替えの靴下を持っておいたほうがよさそうだなぁ。

「雨すごいね」
「あ、おはよ」
「うん」

靴下を取りに寝室に戻れば、ちょうど研磨が起きてきた。まだはっきりしていなさそうな頭でぼーっと窓を見ている。
いってくるねと声をかけると、何も言わずに玄関まで着いてきた。寝ぼけてても徹夜明けでもお見送りは毎日してくれる。

「気をつけて」
「うん、いってきます」
「いってらっしゃい」


窓から眺めているよりも、実際外に出たほうが雨はひどく感じた。最寄駅に着く頃にはすでに爪先が濡れていて、会社に辿り着いたときにはもうびしょ濡れだった。替えの靴下を持ってきた自分を褒めてあげようと思う。えらい。
デスクでこっそり靴下を履き替えて、靴は脱いでおく。帰りまでに乾いてくれると良いけれど。天気予報では午後には止むと言っていたから、帰りは水溜りに突っ込んだりしない限り濡れないと思う。……これは決してフラグではない!

午前中の仕事をこなし、お昼休み。気づけば雨は止んでいた。まだ黒い雲はかかっているけれど、雲の隙間からは陽が差している。
雨の中お昼ご飯を食べに出るのは嫌だから、駅のコンビニでサンドイッチ買ってきたのになぁ。ちぇっ。
まぁそんなことは言っても仕方がない。まだ微妙に湿っている靴を履き、サンドイッチを食べるためにやってきたのはビルの中のお気に入りの場所。大きめの窓が並んでいて街を見下ろすことができる。
雨上がりの街は、晴れの日とはまた違った印象があるなぁ。
椅子に腰掛けて、スマホをいじりながらサンドイッチを頬張った。コンビニのサンドイッチ、久しぶりに食べたけれど美味しい。レタスシャキシャキ。

「あ、」

ネットニュースを見ていたら急に手元が明るくなって、じわりと温かさもやってくる。顔を上げれば先ほどまでの黒い雲はどこかへ流れたようで、窓から見えたのは眩しいくらいの青空だった。そしてその青空にはくっきりと、大きな虹がかかっていた。
虹なんて久しぶりに見たかも。思わずスマホを構えてパシャリ。窓を通していてもよく撮れている。それくらいくっきりとした綺麗な虹なのだ。研磨に送ろうかな。
わくわく顔をした猫のスタンプに「虹!」と添えて写真を送れば、意外にも即既読が付いた。研磨もお昼休憩中かな?

「ふふっ」

少し待っていれば研磨からの返信が届いた。内容は「こっちからも見えた」という一言と、虹の写真。その写真の虹は窓越しではなくて、これを撮るためにわざわざ外に出てくれたのかもしれないと思うと笑みが零れた。同じ虹を見ているというのも、なんか嬉しい。
もうお昼休みも終わりに近いおかげで周りに人がいなくて助かった。さすがにスマホを見て笑ってるところ見られるのは恥ずかしい。

研磨からの虹の写真を保存して、私も自分のデスクへと戻った。ぽいっとデスクの下で靴を転がせば、靴は表を向いて着地。

明日はきっといい天気。

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