まぶしいえがお



「げっ!」

支度をしていたらキッチンからガチャンと何かが割れた音と、光太郎の焦った声が響いた。

「光太郎?」
「わ、悪りぃ」
「あらま」

髪をまとめながらキッチンを覗いてみれば、手に布巾を持ったまま固まっている光太郎が顔だけこちらに向けて謝ってきた。シンクには割れた丸皿と、そのそばに転がるマグカップ。
マグカップ落としちゃってお皿が負けたのかな?

「ちょ、触っちゃだめだめ」
「えっ」
「新聞紙取ってきて」

そーっと割れたお皿に触ろうとする光太郎にしがみついて全力で止めた。
あぶない。大事なその手が切れたらどうするの。
それにしても綺麗に割れたなぁ。黄色い丸皿は大きく3つに割れていて、掃除も簡単で助かる。粉々に割れてしまうと危ないし面倒だもの。

「俺やる!」
「だーめ。」
「でも!」
「手、なんかあったら困る!」

新聞紙を握りしめて俺が片付けると聞かない光太郎に、ちょっとイラっとしてそう言えば、ハッとした顔をして渋々こちらに新聞紙を渡してくれた。なんのために私がさっき触るのを止めたのかわかっていなかったらしい。ばか。
割れたお皿たちを新聞紙で包んで、ビニール袋に入れる。あ、今日ゴミの日だ。

「ゴミの日に割るなんてさすがだね、えらい」

そう言って横にいる顔を見上げたら、予想以上にしょげた顔をしていて思わず笑ってしまう。せっかくセットした髪が垂れ下がって見えるよ。

「……ゴメンナサイ」
「んー?このお皿もうだいぶ使ったもんね」
「ナマエそれ気に入ってたのに」
「まぁまぁ。光太郎が怪我しなくて良かったよ」

大きな背中に手を回してよしよーし、と宥めれば強めの力で抱きしめ返されて肩口で「でもさぁ、ごめんん…」などと、もしょもしょ言っている。
光太郎が割ってしまったお皿は、同棲を始めたときに一緒に買いに行ったペアのもの。たしかにお気に入りではあったけれど、ペアの食器はまだ他にもマグカップとかお茶碗とかあるし、光太郎が怪我をしていないことのほうが大事だった。
だから、全然気にすることないのに。
反省するなら割ったことじゃなくて、そのあと割れたお皿を触ろうとしたことだよ。

「でもこのお皿、使い勝手良かったから似たようなの買いに行こうかな。付き合ってくれる?」
「!!あたりまえ!」
「ふふ、じゃあ今度のお休みはデートしようね」

最近デートできてなかったし。
バッと抱き締めていた私の肩を引き剥がして、いつものニコニコした顔で元気に「おう!」と返事をする光太郎にまた笑う。垂れ下がって見えた髪の毛も、ピーンッと上を向いてすっかり元気を取り戻したようだった。光太郎には元気が一番似合うよ。

「あ、でも」
「うわっ?!」

ぐいっと両手を光太郎の大きな手で包み込まれて、顔の高さまで持ち上げられた。ニコニコ笑顔から一転、真剣な顔でこちらを見つめてくる。

「俺もナマエの手に、手だけじゃないけど!なんかあったら困るからな!」
「……」
「返事は?」
「あ、うん」
「よし!」

私の返事を聞いたら、今度はにこーっと効果音がつきそうなくらい眩しく笑う。
しょげたり、ニコニコしたり、真剣になったり、忙しい顔だ。

「ハッ!ナマエ時間やばくね?!」
「えっ」

時計を見れば、確かにもうあと5分で家を出る時間だ。やば、光太郎とニコニコしている場合じゃなかった。
ぽんぽん、と光太郎の背中を撫でてから残りの支度を急いだ。
なんとか5分で支度をして、家を出ようとしたとこでゴミをまとめていないことに気づく。

「あぁ…ゴミ……」
「ゴミ捨ては俺がしとく!」
「え!いいの?」
「おう!」
「じゃあ、お言葉に甘えるね、ありがと。いってきます」
「ナマエ忘れ物!」
「え?」

何を忘れた?ドアを開ける手を止めて振り返れば、目の前に迫る光太郎の顔。あ、忘れてた。
いってらっしゃいのちゅー。

「ん、いってらっしゃい!」
「ふふ、いってきます!」

ぶんぶんと大きく手を振って、私がドアを閉めるまで見送ってくれる光太郎が可愛くて仕方ない。この笑顔で毎日お仕事頑張れてるようなもんだ。

早く休みの日にならないかな。

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