キミのアイリス


ふわふわとした金色の髪が、走ったりジャンプするごとに跳ねる。それがなんだか可愛らしくて、練習中気づいたら眺めてしまうようになったのはいつからだったか。サラサラそうな髪質の影山や縁下さんとは全然違うし、ふわふわ感が似ているように見えるスガさんや日向ともまた違うふわふわ。私もふわふわな髪質が良かったなぁ、とポニーテールの毛先をくるくる指に巻き付けながら思った。サラッサラの直毛だ。でもこの直毛を羨む友人だっているんだから、ないものねだりだよなぁ。

休憩に入り、メガネを外してタオルで顔を拭いている月島をじっと見ていれば、視線に気づいた月島がじとりとした目で見返してくる。メガネを外しているせいで見えにくいのだろう、目付きが悪い。月島は髪の毛も綺麗な金色だけど、目もその髪に似て色素の薄い綺麗な色をしてるんだよね。そんなにぎゅって上下の瞼に力を入れたら、綺麗な瞳が押し出されちゃうんじゃないかとヒヤヒヤしちゃう。
もうちょっと近くで見たくなって、なんだと言いたげなその顔の前にそっとしゃがんで目線を合わせた。急に近づいたことに驚いたのか反射的に後ずさろうとした月島だったが、うしろは壁で下がろうにも下がれない。ゴッ、と鈍い音がして顔を顰めたのでどこかぶつけてしまったのかも。ごめん。

「月島の目、綺麗だよね」
「……何急に」
「見せて」
「は?ちょっと」

ずい、と首を伸ばして瞳を覗き込む。あぁ、近くで見たら黄味のかかった薄い茶色なんだ。いつもの距離から見る瞳とはまた違って見えるような気がした。瞳を覗き込まれているこの状況が落ち着かないのか、月島の瞳は斜め下を向いてキョロキョロしている。キョロキョロする月島が珍しくて面白くてさらにじっと見つめてしまう。

「あれ」
「……どうしたの」
「目の輪っかのとこ、なんか月島の違う」

食い入るように見ていてふと違和感を感じた。どこに違和感を感じたのか始めはわからなかったけど、瞳の輪っかの部分。あれがいつも鏡越しに見ている自分の瞳と違う気がするのだ。

「虹彩のこと?」
「虹彩って言うの?」
「はぁ、そんなことも知らないわけ?中学の理科レベルなんだけど?」
「うっ……」
「瞳孔の周りにある模様でしょ」
「そうそう模様が違う」
「虹彩の模様は人それぞれ違う」
「そうなの?!」

知らなかった〜!人の瞳なんてこんなに近くでじっくり見ることないもんなぁ。面白い。

「月島こっち見てて、よく見せて」
「うわ、」

ちょいちょい、とTシャツの裾を引っ張って目線をこちらに向かせる。どうしても下を向きたがる月島だったけれど、私が裾を離さないから仕方なくこちらを向いてくれた。眉間に皺が寄っているので本当に仕方なくなんだろうな。

「なんか、もやもや〜ってした輪っかだ」
「そう」
「私の目は?違うでしょ?」
「まぁ、」
「見て!」

月島から見た私の瞳はどうなのか気になってもう一度Tシャツの裾を引っ張って、見てくれと強請った。眉間のしわが更に濃くなって、軽く舌打ちが聞こえた気がするけど気のせいということにしておく。

「茶色」
「んで?」
「なんか、ギザギザしてる」
「だよねギザギザだよね!」
「わかってるならわざわざ聞かないでよね」
「いや、月島から見たらどうなのかなって」
「そんなの一緒でしょ」
「わかんないじゃん〜」
「……じゃあもっと詳しく言うからよく見せて」
「っえ」

裾を掴んでいた手を掴まれ、ぐいともう一段階顔が近づく。まさかの行動に今度は私が驚く番だった。心臓がバクバクするのは驚きからか、はたまた別の感情からか。

「このくらい近づかないと見えない」
「あ、あぁ!メガネしてないもんね」
「そうだよ」
「……」
「こっち見て」

自分が覗き込む分には良かったけれど、覗き込まれる側になると確かにこれは下を向きたくなる。だから気を逸らすように私も負けじと月島の瞳を見つめた。

「ミョウジのはやっぱりギザギザな模様だね」
「そっか」
「でも、ちょっとオレンジも入ってるかも」
「オレンジ?」
「オレンジと焦げ茶」
「へぇ〜それは感じたことなかった!」

オレンジも入っているなんて新発見。いつも見ているとはいえ、ここまで至近距離じゃないから気づかなかった。月島に見つけてもらえたことがなんだか嬉しい。

「月島はね、もやもやの輪っかが二重になってて瞳全体より黄味の強い茶色」
「そう」
「やっぱ綺麗な色してるね」
「どーも」
「ふふ」

お互いの虹彩について感想を伝え合っていれば、横からカシャカシャと聞き慣れたカメラのシャッター音が聞こえてきてハッとする。横を振り向けば、携帯を構えたスガさん。え、なになに。てか連写した?

「お前らイチャつくなら他所でやれよな〜!」
「いっ?!」

ニヤニヤした顔で片手を口に添えてそう言い放つスガさんに、私も月島もギョッとする。イチャつくってなに!

「いちゃついてなんかないです〜!」
「そうですよ、このおバカさんに付き合ってただけです」
「おバカさんってなによう」
「虹彩も知らないんだからおバカさんでしょ」
「そういうところだぞ2人とも」

スガさんの後ろからぬっと大地さんも出てきて私たちの言い合いにストップをかける。いつの間にか休憩も終わりの時間だったようで、小さくため息をついた月島がメガネをかけてすくっと立ち上がってしまった。休憩の時間を奪っちゃって少しの罪悪感。ごめんね。
そんな月島を見上げていれば横からスガさんが手を差し出してくれたので、ありがたくお借りして私も立ち上がる。

「どうかした?」
「月島の休憩奪っちゃって悪いことしたかなぁって」
「いや〜、月島は嫌だったら付き合わずに無視するか移動するなりすんべ」
「…それもそうですねぇ」

スガさんの言う通りだ。嫌なことは嫌ってちゃんと断る月島なんだから大丈夫か。

「これで付き合ってないんだもんなぁ?」
「へ?」

なんのことだとスガさんを見れば、先程のニヤニヤとした顔にさらに意地悪そうな要素が加わった顔をしていた。うわ……。

ほれ、と言って見せてくれたのはさっき撮ったものであろう写真。予想以上に私と月島の顔が近かったそれに、身体がぶわっと熱くなったのがわかった。

「……こんな近かったんです?」
「そうだよ、見ててヒヤヒヤしたわ〜お前ら距離感どうなってんの?」
「……」
「チューでもしだすんかと思った!」
「ばっ!」

ばっかじゃないの!と言いそうになってしまったのを慌てて抑えた。先輩にばかはダメだ。あぶないあぶない。でもそんなこと言うスガさんが悪いと思う…!
真っ赤になっているであろう私の顔をスガさんはしたり顔で覗き込み、あとでこれ送っとくな〜と言って練習に戻っていった。くそぅ、楽しんでるなあの人。
送らなくていい!とその背中に叫ぼうかと思ったがもう一度ちゃんと見たいなと思ってしまっている自分もいて、むんと口を窄めた。
月島とのツーショット(って言っていいのか微妙だけど)なんて初めてだし、あんなに近づけることもうないかもしれないし。それに、どこか月島の耳が赤くなっているように見えた。気のせいかもしれないけど。
って余計なこと考えたらまた顔が熱くなってしまった。ぺちん、と両頬を叩いて気持ちを切り替える。
ちゃんと自分の仕事しなきゃ!
潔子さんの元へ駆けて、この後の仕事の確認をしに行く。


部活終わりにスガさんがあの写真を月島にも見せ、それを覗き込んだ日向が騒いで部全体に知れ渡ることになって。そのせいでなぜか私が月島に怒られるんだけど、照れてるなって分かる顔で怒ってくるからちっとも怖くなかった、っていうのはまた別の話。


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