溶け切ったスイッチ


「うわ、」
「あつぅ…」

2日空けていた家に帰れば、むっとした暑さが部屋に篭っている。窓を開けて風を通したいが外は雨で。まだ外気温がそこまで上がっている訳ではないからエアコンを点けるのを憚られたけど、この蒸し暑さは無理だ。除湿モードでスイッチオン。
暑くて雨の日は嫌いだなぁ…。ゴーッと音を立てて動き始めたエアコンが少しは涼しくしてくれるだろう。

「あー、つかれた」
「ね、帰りにここまで降られるとは」
「でも向こうは降らなくて良かったね」
「ほんと」

2日間、プチ旅行に出掛けていた。珍しく倫太郎が連休を取れたのだ。旅行と言ってもちょっと贅沢な旅館に泊まってのんびりとしていただけだけれど。向こうは一昨日から晴れていたから露天風呂も気持ち良かった。海の近くの旅館だったから、お風呂からも部屋からも絶景だった。チェックアウト前にももう一度露天風呂に入ってしまうほど。しかし帰り道、住んでいる県に入った途端の大雨。雨予報ではあったけどこんなに降るとは。ザーザー降りのなか最寄り駅から歩けば、るんるんな気分も下がってしまう。1泊で荷物が少ないだけ良かったことにしよう。

「アイスでも食べてちょっと冷える?」
「いいね」
「ぶどうとももどっちがいい?」
「んー、もも」
「はい」

なかなか消えない蒸し暑さからじわりと汗が滲むのを感じ、そういえばアイスあったはず、と冷凍庫を漁る。アイスキャンディーがぶどう味ともも味の1本ずつ残ってた。たっぷり入ってるのに安くてお気に入りだ。味もいろいろだし、サイズもちょうど良い。
倫太郎にもも味を渡して、私はぶどう味を口に含めば冷たさと甘い味が口に広がる。あ〜、冷た、おいし。
シャクシャクと食べ進める倫太郎と、ちびちびと舐めて食べる私。だって歯にしみるんだもん。2人とも立ち食いでちょっとお行儀悪いけど、暑くてソファに座るのもいやだ。許して欲しい。

「ちょナマエ、手に垂れてる」
「わ!本当だ」

ちびちび食べ過ぎたようで溶けて垂れてきた紫色が指に流れていた。拭くものが手元になかったから、これ以上流れないように咄嗟に指を舐めて止める。それから垂れ始めていたアイスキャンディーの根元を舐めた。あぁ〜、指ぺとぺとする…。ちゃっちゃと食べちゃいたいけどしみるのやだ。
溶けかけのアイスキャンディーと格闘していたら、するりと腰に腕が回った。いつの間にか倫太郎はアイスキャンディーを食べ終わっていたようでその手には木の棒すらない。

「ん?」
「なんか、むらっときた」
「へぁ?!なんで?どこで??」
「舐めてるとこ?」
「ば、っか!…ぅひゃ、」

なんとアイスキャンディーを食べていただけなのにスイッチを入れてしまったらしい。今回のことだけじゃないけど倫太郎のスイッチ、本当にわからない。
腰に回った手がやらしく動き始めて身を捩る。

「ちょ、アイスまだ食べてるから!」
「……早く食べて」
「待って待って、」

倫太郎に急かされて、ぱくっと大きめの一口で残りのアイスキャンディーを口に含んだ。しみるから噛みたくなくて、必死で口の中で舐める。でも入れた一口が思ったより大きくて、口の端からつぅーっと流れ出てしまったのがわかった。垂れる……!

「ん」
「ふえっ」
「ぶどう。」

垂れる直前にそこに生温かいぬるりとした感触が。舐められた。驚いたが口の中のアイスキャンディーがまだ残っていて何も言えず、その代わりに変な声が出た。
うん、ぶどう味だからぶどうだね…。普段なら私が溢すところなんて笑ってからかうくせに。本当にスイッチが入っているらしい。
木の棒にアイスキャンディーが残っていないことを確認した倫太郎はもう待てない、というように腰をぐっと引いて私の唇を食べた。口の中にはまだ残ってるから、中のものが溢れないように口を結んでいたのに、少しの隙間から無理矢理侵入してくる舌。だいぶ小さくなったアイスキャンディーを挟んで2人の舌が絡まった。いつもより大きく響く水音がいやらしい。

「ん、ふぅ」
「っん」
「ん、んぁ」

アイスキャンディーが溶け切ったところで唇が離れる。ごくり、とお互いの喉が鳴った。
倫太郎を見上げてふうふうと息を整えていれば「っは、えろ」と呟かれてまた唇にかぶりつかれた。頬に添えられた手が動くごとにぺたぺたとする。まだ息が整っていないところでの深いキスで、苦しい。力が抜けかけて腰に回った腕に体重をかけた。それが分かったのか一度唇が離れた。

「ベッドとソファどっちがいい?」
「え、っと…ベッドで……」
「よいしょ」
「っわ」

ベッドで、と告げれば腰にあった腕は脇の下、もう片腕は膝裏に回って身体が宙に浮く。慌てて倫太郎の首にしがみついた。

「待って待ってこわい!」
「暴れると落ちるよ」
「……うぅ、」
「木の棒捨てな」

寝室へ向かう前にシンクのそばまでわざわざ寄ってくれて、木の棒を投げた。
それを確認してから寝室へと連行。

うぅ、もう倫太郎の前でアイスキャンディー食べられない……。




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