ミッション・ワン
「ちょ、研磨その頭で取材受けるつもり?!」

取材当日、ざっくりと雑にまとめられた髪でパソコンの前に座る研磨に唖然とした。オンラインの取材とはいえ、カメラはオンなんだからもうちょっと綺麗にしよう?写真も撮るんだよ?
面倒臭そうな顔をしたのは無視して、洗面所からブラシを持ってきて研磨の後ろに立つ。取材の時間まではあと10分あるから余裕だ。

「じっとしてて」
「ん」

縛られていたゴムを解いて、ブラシをかける。金髪の部分はパサパサだけれど、だいぶ伸びていた地毛はブラシがするすると通るほどだった。綺麗な黒髪だこと。これ、どこまで伸ばすんだろう。もうプリンを通り越している。カラメルの方が多いプリンは美味しくなさそうだなぁ……。
鎖骨付近まで伸びた髪をハーフアップにまとめて、毛先はくるんっとお団子に。

「あら、かわいい」
「……かわいいはやめて」
「事実だから仕方ない……あ、ちょっと!解かないで!?」

思わず口から漏れてしまった言葉を聞いた研磨がお団子に手をかけようとするもんだから、急いでその手を止めた。
似合ってるんだから!やめて!
取材の時間が迫っていたこともあって、なんとかお団子は崩されずに済んだ。私も一言、画面の向こうに挨拶をして、カメラを構えて研磨の後ろをうろうろする。今日は研磨の言う“いかついカメラ”とフィルムカメラを用意した。研磨の雰囲気ってフィルムカメラも合うと思うんだよね。雑誌には載せにくいだろうから完全に私の趣味用だけど。堂々と仕事中の研磨を撮れるんだから楽しまなきゃ損だ。人物を被写体にすることへの不安や抵抗感など、この1週間でどこかへ行ってしまったらしい。


▽▲▽


「お疲れさま〜」
「つかれた……」

ぐでーっとキーボードに頬を付けて脱力している研磨の髪を撫で付ける。久々の取材でお疲れの様子。
温かいお茶を2人分淹れ直して、私もさっき撮った写真のデータを見直そう。そこそこな枚数を撮ったけれど、研磨の表情はどれもあまり変わらなくて残念。あ、でも編集の方にゲームのマニアックな話題を振られたときはちょっと笑ってたな。あれにしようかな。
あの話、私は全くついていけなかった。まじ意味わからん。少しずつゲームや諸々のことを勉強はしているけれど、やはりまだまだらしい。

「そんなに撮ってたの」

椅子に乗ったままゴロゴロとこちらに移動してパソコンを覗き込む。軽く研磨の方にディスプレイを向けてやれば眉を顰められて、思わず苦笑が漏れた。画面にずらりと並ぶ自分が嫌なんだろうな。
ちょっと笑った研磨と、あまり笑っていない研磨を並べてどっちがいいかと問えば「どっちでもいい」とだけ答えて自分のパソコンへと戻ってお茶を啜る。まぁ、予想通りの答えだけど。
どっちでもいいってことは、どちらを選んでも掲載可、ということでもある。それなら先方に選んでもらおうかな、とどちらのデータも送っておいた。あとは向こうにお任せだ。

「ねぇねぇ、これからも研磨のこと撮っていい?」
「……撮ってどうするの」
「私が楽しむ?」
「ふっ、なにそれ」
「じゃあインスタしよインスタ!秘書が撮るコヅケン載せよ!」
「需要ないでしょ」
「じゃあツイッターでいいよ」
「じゃあ、の意味がわかんない」
「ちぇー」

いいよ、なんてあっさり言ってくれるとは思ってなかったけどさ。椅子の上で膝を抱えて椅子ごと回る。ぐるぐる。この姿勢、私も研磨もよくしてて、この前なんか1回蹴ってからどっちが多く回れるかなんて遊びもした。小学生かよってね。
ちなみに研磨の勝ちだった。悔しいからこれは自主練なのだ。次こそは勝つ。……次、第二回戦があるかは不明だけど。

「……まぁ、ナマエが楽しいなら撮っていいよ」
「ほんと?!って、うおっ?!」

まさかの返答に顔を上げれば、同時に椅子がぐるんっと勢いよく回される。研磨の手によって。回されるとは思ってなくて、下げかけた足をまた戻した。
ちょっと待って!いつまで回すつもり?!

「あ、でもSNSにあげるのは禁止ね」
「え、うん?!待って止めてから話して?!」

えい、とでも言うように最後に大きく回されて研磨の手が離される。
ぐるぐる、ぐるん。
最後はゆっくり回ってようやく止まった。
ううう、さすがに目回った……。
背もたれに頭を預け、目を瞑ってぐったりとしていれば、頭上からパシャリとシャッター音が。目を開けるとクスクスと笑いながらこちらにスマホを向けている研磨がいる。撮られた。別にいいけど。

「クロに送ろっと」
「え〜、送るならキメキメポーズのナマエちゃん撮って送って!」
「ふふ、何そのポーズ」

結局研磨はぐったりしている私と、キメキメポーズの私の両方を鉄朗に送ったらしく「テンションの差がひでぇ」と草まみれの返信が届いていた。このテンションの切り替えが約10秒だと知ったらもっと草生やされそうだなぁ……。

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