高2の10月5日





「治くんお誕生日おめでとう!」

いつものように昼休み、外階段へと迎えばニコニコとした苗字にそう出迎え(?)られた。いつもと違うのは俺の手には購買のビニール袋がぶら下がっていないことと、苗字の手には橙色の包みの他に、青色の包みがあること。
横に座ればおずおずと青色の包みの方を差し出してくる。お礼を言って受け取ると、思ったよりもずしりとしたその重量に少し驚いた。

「ほんまにプレゼントっちゅーか、お祝いがこれでええん?」
「これが、ええんやって何回言わすん」

先週くらいに突然「5日って誕生日なん?日頃のお礼になんかあげたい」と言ってきた苗字。誕生日を教えた覚えがなかったから、なんで知っとるん、と尋ねれば「クラスの子が話しとんの聞こえてん」とのこと。……盗み聞きかい。でもまぁ、近くの席の会話なんか聞こうとせんでも聞こえてくるか。
そこで俺がお願いしたのがこの弁当。最近食べられる量も増えてきた苗字のお弁当が、毎度美味しそうだったのだ。苗字のおにぎりは食べたことあるけど、おかずは食べたことなくて、どんな味なんかむっちゃ気になるというのも本音。

ワクワクしながら包みの結び目をしゅるりと解けば、大きめのおにぎりが2つとおかずケースが現れる。おにぎりにはラップに「鮭」「昆布」のシールが貼られていた。

「お、しゃけと昆布か」
「ごめんな、治くんサイズのお弁当箱無くて別々になってしもた……」
「へ?あぁ、そこ全然気にしてへんかったわ」
「え〜、言わんかったらよかったわ謝り損!」
「なんやねん謝り損て!」

苗字に言われて、確かに苗字のおにぎりはいつもお弁当箱の中に詰められていたな、と気付く。ほんまにそんなこと気にも留めてへんかったわ。
おかずケースをワクワクしながら開けば赤・黄・緑のおかずたちが顔を見せる。綺麗にくるりと巻かれた卵焼きに、ツヤツヤと照りの出たタレが絡められた鶏肉とさつまいも、ごまとマヨネーズで和えられた牛蒡と人参のサラダ、色の良いブロッコリー。季節も感じられるその中身に思わず感嘆の声が漏れる。

「おぉ〜!うまそ!」
「お口に合うとええんやけど……」
「いただきます!」
「あかん、おにぎりんときよりむっちゃ緊張する」

箸を持ったものの、どれから食べようか迷ってしまう。じっとおかずたちと見つめ合ったあと、俺が箸で摘んだのは卵焼き。横からの強烈な視線を感じながらも口に入れれば、だしがふわりと香る。前にしょっぱい派やて言うとったな。

「うま」
「ほんま?」
「てか焼き方上手すぎん?」
「小1のときに作るのハマって毎日のように焼いとったからなぁ」

卵焼きの感想を聞いてとりあえずは安心したのか、苗字も自分のお弁当を開けて食べ始める。俺のと比べたら量はかなり少ないが、中身は同じだ。

「照り焼きうまぁ……」
「さつまいもの甘さ引き立つやろ」
「おん、さつまいもええな」
「秋やな〜って思たら食べたくなってん」
「秋はいもくりなんきん、よな」
「ほんまそれ」

いつものパンとお弁当のときのように、2人で並んでもぐもぐと食べ進める。購買のパンも美味くて好きやけど、弁当もええなぁ……。

「ごちそうさまでした!」
「お粗末様でした」
「むっちゃ美味かった!ありがとうな!」
「そう言ってもらえてなにより!」

洗って返す、と言ったおかずケースと包みは回収されてしまい、代わりに可愛くラッピングされたカップケーキを渡された。

「なん?これ?」
「デザート!」
「デザートまであるん?!」
「やっぱなんかお弁当だけやと味気ないなぁて」
「手作り?」
「おん」

まさかの嬉しいサプライズにさらにテンションが上がる。チョコチップの散りばめられたカップケーキは見ただけでもう美味い。

「すぐ食べてまうん勿体無いなぁ、でも持って帰ったらツムに食われそうやし……」
「ふふ、カップケーキくらいまた作って来たるよ」
「ほんまに?!」
「おん、ちなみにカップケーキまだあるから2つ持って帰って侑くんと食べたら?」
「ツムには別にやらんでええよ、俺が3つ食べるわ」
「こらこら」

ケタケタと笑う苗字にもう一度いただきますを言って、カップケーキにかぶり付く。うま。お菓子作りもできるとはまた新たな発見。
ちょうど1つを食べ終わったところで予鈴が鳴った。

「カップケーキも美味かった、ほんまありがとうな」
「いえいえ、おめでとうね」
「来年も楽しみにしとる」
「え」
「フッフ、はよ戻らんと遅れんで」
「あ、ちょ待って!」

その日は午後の授業も部活もテンションが上がったままで絶好調だった。部活でもおめでとうの言葉をたくさん貰えたのもあるけど。

「侑くんと仲良う食べてな」と渡された2つのカップケーキの存在を、ツムが知ることはないやろうな。隠れて食べたろ。




back
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -