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私が"めし"を食べられなくなったのは2ヶ月前の3月から。2年生になる少し前、インフルエンザで食欲がなくなったのがきっかけ。

最近の処方薬はすごいもので、1日かそこらで熱は下がった。しかし食欲は3日ほど戻らず。まともに3日食べてないから当たり前なのだけど、体重がスルッと落ちた。それがなんだか気持ちよくて、その日から食べる量がグンと減っていった。もともと食が細い方だったから「まだあんま調子戻ってへん」と言えば親も納得して、お皿に盛る量を減らしてくれた。

食べなければどんどん減っていく。体重に比例して体力も。
気付けば頭の中は数字で支配されていた。体重のこと、カロリーのことで頭がいっぱい。
感情のコントロールもうまくいかず、心配して食べさせようとしてくる親には泣いて反抗した。自分がおかしくなっていることに気づいてはいたが、どうにもコントロールができない。

食べるのが怖い。

2ヶ月前からは5キロ落ちていた。標準くらいの体重から5キロ落ちれば見た目に痩せたと思う。自分が細いかどうかの判断もつかなくなってる。自分ではもうどうにもならなくて、そろそろ誰かに助けて欲しかった。


「…なんやすごい顔しとるけどどないしたん」

苗字さんと昼休みを過ごすようになってから5日目。いつものように外階段へ向かうと、グッと眉を寄せて顰めっ面をしている苗字さんがいた。

「女子に向かってひどい言い草やなぁ」
「他に言い様あらへんもん」
「もん、ちゃうわ」
「ほんでどないしたん」
「…話、聞いてもろてもええ?」
「!」

正直驚いた。苗字さんから聞いてくれと言われるとは。もうちょっと仲良くなってからかなとか思っとったし。

「もちろんや」
「…パン食べながらでええよ」
「ふっ、そらどーも」

ぽつりぽつりと、めしを食べられなくなった理由を話してくれた。インフルエンザで食欲が落ちたこと、そのときに体重が落ちて気持ちよかったこと、そのまま食べられなくなったこと。
食べるのが怖い、それは俺には一生かかってもわからない感覚だと思った。わかりたくない、とも思ってしまった。俺にとって一番好きな時間が怖なってしまうんか…

「食べるのが怖いて、考えただけで恐ろしいな」
「宮くん食べるの大好きやもんね」
「おん。正直、考えてもどんな感じなんかさっぱりやわ」
「ふふ、せやろなぁ」

話終わると顰めっ面は解けて、ケタケタと笑う苗字さんがいた。話すのに緊張していたらしい。親にも友達にも言えなかったのだと。

「宮くんに聞いてもろてすっきりした!」
「…なんで俺に話す気になったん?」
「んー。毎日美味しそうにパン食べてる宮くん見とったらな、ちょっと食べれそうな気ぃしてきてん。」

ほんまは食べたいんよ、と続けた。
その声は、以前うらやましいと呟いた色と同じで泣きそうだった。

「あと宮くんならあんま深く考えんと聞いてくれそうやったから」
「…それは貶されとる?」
「いい意味でや、いい意味で!」


「なぁ、宮くん。私のこと助けてくれへん?」



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