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同じクラスの苗字さんは、細っこい。
角名が以前言っていた「見てて不安になる細さ」というのは案外的を射ている。暖かくなってきてブレザーを着なくなったせいも相まって、その細さがさらに目立つようになった。
スカートから伸びる脚なんか、俺がちょっと力入れて握ったらポキッといってしまいそうやな。
なんて斜め前の席で友達と談笑している苗字さんを見ながら想像してしまった。…ごめんな、頭ん中とはいえ脚折ってしもて。
そういえば苗字さんが何か食べているところを見たことがない気がする。昼休みになれば何も持たずに教室を出て行くし。今だってそうだ、友達から差し出されたお菓子をへにゃりと笑って躱している。困ったように眉を八の字にして笑うその目の奥は寂しげに揺れていた。
好き嫌いめっちゃ激しいとかか…?


ある昼休み、購買の帰りに窓から苗字さんを見つけた。中庭の隅っこ、外階段の下でじっと体育座りをしている。よっこいせ、と隣に腰を下ろせば驚いた声と視線が横からグサグサと。

「え、どしたん、なんでそこ座るん」

たまらず声をかけてきた苗字さんは、いつもは眠そうにしている目をまん丸にして固まった。そんな間抜けな顔もすんねんな。

俺はその問いかけに「めし」とだけ答えて、購買で買ってきたパンを頬張る。今日は惣菜パン、菓子パン、惣菜パンの順。あまいからいの法則や。苗字さんはまだちょっと間抜けな顔で俺を見ていたけれど気にしないことにした。

「なぁ、購買のパン何が好き?」
「…食べたことないからわかれへん」
「食べたことないん?!」

思わずぐりんっと横を向いてしまい、パンを頬張ったまま喋る俺にちょっと嫌そうな目が向けられる。
購買のパン美味いねんぞ、もったいない。

「宮くんはようけ食べるね」
「腹減ったままやと動けへんしなぁ」
「せやね。しかもしあわせそうに食べとる」

うらやましい、
ポツリと溢れた言葉はどこか泣きそうな色をしていた。
なにが羨ましいのかと問おうとしたが、タイミングよく鳴った予鈴にかき消された。まるで、聞かないでと言われたよう。

「宮くんも午後遅れんように来ぃや〜」

じゃ、と立ち上がってスカートをはたいて行ってしまった。


昨日の昼休み、なぜか私のもとに宮くんが来た。
なんか…勝手に来て勝手に横でパン食べとってんけど。宮くんとは特別仲が良いという訳でもなく、たまーに喋るくらいのただのクラスメイト。だから昨日の行動が謎でしかなかった。
そしたら今日も来たのだ。昨日と同じように膨らんだ売店のビニール袋を鳴らしながら。

「昼飯は?」
「食べてへんよ」
「俺のパンやらんで」

いらんわ、と心の中で悪態付いてしまう。そんなお砂糖だらけの菓子パン、いらん。ぎゅっと膝を抱えていた腕の力を込めて、顔を埋める。そんなしあわせそうな顔して食べとるとこ見せんといてほしい、苦しい、羨ましい。

「…なんでここ来るん」
「んー、苗字さんとおしゃべりしたいなぁ思って」
「なんやそれ」
「そのままの意味やん」

「なんでそんな細っこいんやろ、なんでめし食わんのやろって気になんねん。」
「でもなぁ、なんとなくやけど突っ込まれたないことなんかもしれんと思って。」
「せやから仲良うなったろーて。」

「え」

なんでもないことのようにそう続けた宮くんに、思わず顔を上げた。



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