「ふんふーん…でーきた」


鼻唄を奏でながら一人の少女は満足そうに立ち上がる、その手にはマジック、そして足元には爆睡の何やら黒い塊
こんなシュールな光景が桐皇学園屋上で発生していた

「んー、起きへんなぁー……うしっ」

少女は再びしゃがむと黒い人の顔に被さっていた雑誌を手に取り


思いっきり腹めがけて降り下ろした。


「うぐぇっ!?」

変な呻き声がしたが起きたのならもうここにいる必要はない
というか、ここにいたら身に危険が降りかかる

「っ、とー」

自分の身軽さをこことぞばかりに活用して屋上の扉の前に飛び降りる
上からドタバタと聞こえるが気にしてる暇はない

「っ、てめっ!灯っ、待ちやがれっ!うおっ!?!」

「待ってたら捕まるやないかー、まぁ」


靴紐互いに縛っといたから追いかけるどころか、立つんも難しいけどな
ご丁寧に固結びにしといたしな


笑みを浮かべながら叫び声を背に校舎内へと駆け出した



「もぉそろそろ来よるかなー」

背後を気にしながら廊下を軽やかと進んでいると前方に見知った顔を発見した

「若松やーん」

「灯か、アイツ見なかったか?」

「心配せんでもええと思うで、はいコレ」

話の最中に持ったままだった雑誌改め青峰の大事なマイちゃんの写真集

降りかかる危険は回避しとかんと、な

「タイミング的にもうそろそろやな」

「何がだ?」

「すぐ分かるで、ほな健闘祈っとるわ」

まさか、と思ったときには遅く若松と話していた灯はもう走り出していて、反対側からすごい形相の生意気エース
いつもなら怒鳴り付けるのだか、今はそういうわけにいかなかった
近付く青峰に対して若松は持たされた写真集を見えないように背に隠すしか出来なかった

「灯待ちやがれえええええっ!」

「そんな顔で言われたないわー」

あいつらは台風か嵐か。




走りながら青峰おちょくり灯は一足先に最終目的地の体育館へと辿り着いた
まだ部活開始時刻の前だったので部員も疎らだったが、お目当ての人物がいたのでその人の背中へ抱きつく

「翔兄ちゃんっー」

「んー、どないしたん灯」

「ちょお隠れさせてー、もう来よるねん」

「しゃーないなぁ」

お目当ての人物の兄の背中へ小柄な体を忍ばせ、さりげなく兄のポケットへ鏡を入れておく
そして丁度良く、標的が体育館へ到着し今吉を見つけると一直線に向かってくる

「青み、…………フフッwあかんやろww」

「今吉サンあいつは?」

「知らへんでww自分w」

「何笑ってんだ」

妹の所業に笑いを堪えきれなくなりながらも未だ状況の分かってない青峰にポケットの妹の鏡を差し出してやる

「……なっ!?っち、灯のやろう…」

「一応灯も自分よりは年上なんやから呼び捨てせんといてぇなwそれとはよ顔洗ってきい」

顔面の惨状にようやく気付いた青峰は「だから走ってるとき周りの奴等笑ってやがったのか…」と言いながら水道へ急ぐ
まぁたぶん油性やろからそうそう落ちへんやろな、てか笑われとるん放置で追いかけるんてどんだけ必死やねん

「相変わらずやんなあ、額のあれ傑作やったで?」

「『乳命』?事実やん?」

「せやな、ところで」

笑いあってた兄がいきなり話を変えたのと雰囲気がさっきと変わったのに対し、灯は一歩下がる
あかん、あれバレたかなー…

下がったのに対して先程と違った笑顔で近づいてくる兄

「自分、今朝したこと覚えとるよな?はよ返し」

「ん、んー?」

ジリジリと近付く距離、少し開いてる兄の眼、開眼とかヤメテー

絶体絶命のこの状況に逃げ道はないかと探すと入り口にある人を発見し、隙をついて走り出す

「す、諏佐せんぱーい!」

「灯?どうし、たっ!?」

いきなり抱きつかれ驚き、そして前方にいる人物を見て頭を抱えた

「お兄ちゃんが怒ったー…」

「(またか…)ちゃんと返してやりな」

「……うん。やっぱり諏佐先輩優し、大好きや」

「……………諏佐ぁ?」

爆弾発言で周りの空気は冷え、今吉の表情もさっきより恐いものとなっている

「もうお兄ちゃんより諏佐先輩の方がいーなー」

「諏佐…あとで話あるわ」

「理不尽だ!俺は関係ないだろ!」


修羅場と化したこの現場の主犯格はとっくに離れてピンクの美人と眺めていた

「あははっ、楽しーなあ。さっちゃんありがとさん」

「いえいえっ、また手伝わせてくださいっ」

「そん時はよろしくなー」









(今日も桐皇は平和やなー)
(ですねー)



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