「ん、ん…?」


暑さと眩しさを感じゆっくりと目を開くと、部屋と窓のカーテンがふわりと揺れたのが見えた。
……あれ?轢かれたんじゃ、なかったっけ。
すぐに自分の身体を確かめるが特に目立った傷もなく、跡すらもない。まるで事故自体がなかったことのように。


「天国…ってわけでもなさそうだし。夢…?」


私が事故にあったときの季節は冬、なのに窓の外から聞こえる蝉の音は明らかに夏をしめしていて、夢以外に考えられなかった。
呆然としていたがとりあえず自分のいる部屋を探してみることにした、このまま考えたって意味がない。
部屋を見渡せば、自分の使っていたものと似た机と本棚、段ボール数箱、ハンガーラックにかかった制服にスタンドミラー。引っ越してきたばかりであるかのような状態に、眉をひそめた。それにかかっている制服には見覚えがあった。


「中学の時の制服じゃん、」


ふと制服のポケットに何か入っているのを見つけ取り出してみると、懐かしい中学の学生手帳。何気なしに開いて中を確認すると、第二学年と書かれた下の日付を見て固まった。


「…夢、だよね。」


確認、しないと。机に置かれてた携帯を取って日付を見れば手帳と同じ日付を表していた。夢のはずなのに嫌な予感がした。
二つを握りしめて立ち尽くしているとコンコン、とノックの音が響いた。


「由槻ちゃん、起きた?」
「あ、はい」
「もうお昼だからご飯にしましょ?下で待ってるわね。」
「分かりました。」


トントン、と階段を下りる音を聞きながら手元の携帯を見れば確かにお昼を示していてお腹も減っていた。まぁ、夢なんだからとさっきまでの動揺を気付かなかったことにして部屋を出た。









「よく寝れた?」
「はい、」
「そんなかしこまらなくていいのよ、それにしても悪いわね」
「え」
「妹は周りを振り回すのだけはお母さんに悪く似ちゃって、仕事が海外であなたをおいていかないといけないなんて早く言いなさいよって感じよ。」
「あ、えと…すいません」
「あなたは謝らなくていいのよ、悪いのはあなたのお母さんよ。ごめんね妹がふりまわしっちゃって」
「い、いえ…」


おばさんは一通り話すと昼食の準備に行ってしまった。
ここまでの話をまとめると、私の親は仕事へ海外へ、私は日本に残留。おばさんにお世話になることになったが、おばさんはつい最近そのことを知って、しかも私は昨日の夜遅くに尋ねた、ってことか。母さん(?)迷惑かけすぎだろ、夢とはいえ。
それにずいぶんと凝った設定の夢だな、と考えているとおばさんが昼食を運んできた。


「はい、オムライス」
「あ、ありがとうございます」
「そんな硬くなくていいのよ?これからしばらく一緒に住むんだし」
「…うん」
「よし、じゃ食べましょ」
「いただきます」


オムライスを食べながらおばさんは色んなことを話してくれた。ここには今いないおじさんは高校教師をしているとか、おばさんも実は元教師だったとか、母さんが昔から大変な子だったとか、たくさん。話もスプーンもよく進み、あっという間に食べ終わってしまった。


「ごちそうさまでした。おいしかった、です」
「そういってもらえるとうれしいわ。あ、皿置いといていいわよ」
「でも」
「部屋の荷物片付け終わってないでしょう?気使わなくていいから」
「すいません。じゃあ、お願いします」
「謝らなくっていいってば、そういえば由槻ちゃん明日何か用事ある?」
「多分ない、です」
「よかったわ、中学に手続きしに行かないといけないんだけど、急でごめんなさいね」
「いえいえ、何から何までありがとうございます」


まさか高校生から中学生に戻るなんて、不思議な夢だな。
――このときはまだありえない事実に気付くなんて思いもよらなかった。












     
     
     
醒めないの中
     
     
     








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