※四月馬鹿 「モウ、メルナンテ嫌イヨ。気安ク触ラナイデ頂戴」 「えっ」 いつものようにエリーゼを抱き上げようとしたメルヒェンはぴたりと動きを止めた。 ぺち、と叩かれた手が行き場をなくして宙に浮いている。 ――何かエリーゼの気に障ることでも言ってしまったのだろうか。 つん、とそっぽを向くエリーゼの態度が心に刺さる。 思いがけず辛辣な言葉をぶつけられたメルヒェンは、戸惑いながらもここ最近の行動をできる限り詳細に思い返してみた。 しかし心当たりと呼べそうなものはない。 どう謝れば許してもらえるんだろう、でももしかしたら誤解かもしれないし……とおろおろするメルヒェンを見て、エリーゼは満足げにクスリと笑った。 「ウフフ、冗談ヨ。私ガメルヲ嫌イニナル訳ナイジャナイ!」 そう言ったエリーゼは、一度振り払った手に身を寄せてはしゃいでいる。 メルヒェンはひとまず安心したものの、さっぱり話の流れが読めなかった。 「どうしてそんな冗談を言ったんだい、エリーゼ」 「アラァ、知ラナイノ? 今日ハ嘘ヲ吐イテモイイ日ナノヨ」 エイプリルフールって言うの――怪訝な顔で問うメルヒェンに、エリーゼは嬉々として答えた。 「ふふ、エリーゼ嬢は物知りだね」 「……!?」 うんざりするほど爽やかな声。 弾かれたように振り向いた2人の視線の先では、よく見知った男がにこやかな笑みを浮かべていた。 「何ヨ、アンタマタ来タノ?」 「何度だって来るさ、僕のメルヒェンのためならね」 「メルハ私ノモノッテ言ッテルデショ!」 井戸の縁に立ったエリーゼは、精一杯王子を見上げて口論を繰り広げ始めた。 (この2人、実はけっこう気が合うんじゃないだろうか……) エリーゼは全力で否定するに違いないけれど。 そんなことを考えながら、ぼんやりと2人のやり取りを眺める。 急に騒がしくなったなあ、と何の気無しに王子の方を見遣ると、思い切り目が合ってしまった。 「ねぇメルヒェン!」 「な……何だい、王子」 何やら興奮している王子にぎょっとしつつも、なるべく平静を装って応える。 「メルヒェンは僕のことが好きだろう?」 「はぁ……?」 「照れなくていいんだよ、さあ早く! 君の思いの丈を僕に打ち明けてくれないか」 「馬鹿ナコト言ウノモ大概ニシナサイヨ、コノ変態!」 全くもってエリーゼの言う通りだ。 怒り狂っている彼女を膝に乗せて宥めながら、王子の方に向き直った。 「相変わらずどうしようもない男だな、君は。……僕が君のことを好きなはずがないだろう」 「ふむ。やっぱりメルヒェンは僕のことを愛している、と」 「なんでそうなるんだ……!」 うんうんと嬉しそうに頷く王子に呆れ返る。 どういう思考回路を持てばそんな結論に至るんだ、と溜め息を漏らすと、王子はあっけらかんと言い放った。 「だって今日は“嘘を吐いてもいい日”なんだろう? なら君の本当の気持ちはさっきの言葉の裏返しになるじゃないか」 何という屁理屈だろうか。 だいたい、なぜ先程の自分の言葉が嘘だと決めつけられているのか理解に苦しむ。 相手にするだけ無駄だとは思うものの、手放しに喜ぶ王子を見るとメルヒェンは無性に否定したくなってしまった。 「そこまで言うなら君の望む言葉を贈ってあげよう、王子。僕は君のことが――」 「僕のことが?」 一息に告げようとしてメルヒェンははっとした。 ――僕は何を言っているんだ。 いくら反対の意味になるからって、面と向かって「好き」だなんて……! 今すぐなかったことにしてしまいたかったが、目の前でにやにやしている王子がそんなことを許してくれるはずもなく。 「僕のことが何なんだい、メルヒェン? 遠慮なく言ってくれて構わないんだよ、君は僕のことが嫌いなんだろう?」 「――っ……!」 かあ、と顔が熱くなるのが分かる。 メルヒェンは己の浅はかさを呪いながら、ただ口をぱくぱくさせるばかりだった。 ‐‐‐‐‐‐‐ 「嫌いだ」→「本当は好きなんだろう分かってるよ照れてるんだね」 「好きだ」→にやにや たちの悪い王子も好きです 翻弄されっぱなしなメルの純粋さが愛しい… 11.04.01 [ back ] |