※へんなはなし
※いろいろ注意




花だった。白竜のきらきら輝かんばかりの髪の中ぽつりと一点だけを真っ黒に染め上げているそれは、花だった。初め耳に茎を掛けているのかと、まるで髪飾りのようだと思っていたそれは、しかしよく見れば彼のちょうど耳朶の裏あたりから生えているのだ。黒い花が、我が物顔で白竜から生えているのだ。そんな意味のわからない状況をそれでも綺麗だと一瞬思ってしまったのは、やっぱり不謹慎だったかな。

「白竜、それ、どうしたの」
「それが、俺にもまったくわからないんだ」

わからない、そう言いながら彼の首をふったときに、その花弁の外側は真っ白であることに気づいた。彼の髪に負けず劣らずきらきらと真っ白だった。きっと蕾のころは、それはそれは美しく白く輝いていたのだろう。

「痛く、ないの」
「全然。ただひとつ困っていて」
「なに、やっぱり痛い?それとも体調が悪いとか?」
「そんなのじゃないんだが…」

突然、キィキィと不快な音が耳を貫いた。黒板を爪で掻いたような、むずむずする嫌な音だ。眉をひそめて辺りを見回すけれど、そんな音を出しそうなものなんかなにもない。なにも。

「こいつだ」
「え?」

見ると彼はたいそう不快だという顔で耳を塞いでいる。風もない穏やかな日であるというのに、その黒い花は風に踊る野花のごとく揺れていた。

「こいつ、こうやって時々鳴くんだ」
「は?」
「生きているのかもしれないな。寄生虫とか」
「ちょっと、そんなのやだよ」
「俺だって嫌だ」

嫌だと言うわりに、彼の紅い瞳は爛々と輝いていた。未知との遭遇。自分がどうなるかも知れないというのに、彼は彼の好奇心に負けてしまったのだ。あるいはすでに諦めたのか、しかし彼に限ってそれはないだろうからやはり好奇心とは恐ろしいものなのだ。彼はたいへんに賢明で純粋で、そうして同じように大莫迦者であった。

「それ、どうするの?まさか一生そうしているつもりかい」
「まさか、そんな恐ろしい。今こうしている間にだって、俺の中でなにがあっているのか知れたものでないのに」
「当たり前だよまったく」

なんとなく、彼はこのままあの黒い花と人生を共にするのだろうと思った。花の寿命は知らないが、いつか枯れて朽ちるまでずっと連れ添うのだろう。彼の中ではもうすでにあの花に対する情というものが沸きだしてきているに違いなかった。前々からへんな男だとは思っていたが、ここまでくるといっそ清々しくて良いのかもしれない。

「白竜」
「ああ」
「なかなか、似合ってるよ」
「余計なお世話だ」

花のせいかやや乱れた髪を掻き上げながら彼はそう言った。穢れを知らない純白のヴェールの中に、そいつは我が物顔で黒々と咲き誇っている。色の黒いのは少し、気に入らなかった。我が物顔で咲き誇っているのもとても、気に入らなかった。結局すべてをお前のものにすることなんか出来やしないよと笑っているようだった。恨みがましくその花を睨んでやるが、そいつは僕など気にしちゃいないのだとでも言いたげにただ飄々と揺れているだけだった。



何様のおつもり








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