※パラレル注意 こんな日が来るなんて思ってもみなかった。僕は今きっと、なにより幸せだね。 この日はやけに夕暮れの燃え上がるような空の赤く眩しかったのをよく覚えている。冬になろうかと移ろう少しばかり乾いた冷たい風が、彼の特徴的な前髪を揺らしていた。逆光に彼の表情はよくわからないが、しかし彼の背後に真っ直ぐと続くコンクリートの道がまるで延々果てのないものであるように感じる。俺の瞳に彼と切り取られた景色はすべて、些細な現実味までもを失っていた。 「憧れていたんだ、天馬やツルギたちに、それから君に」 ぎゅっと頑なに彼の背後に組まれた腕は今、なにを思っているのだろうか。もしかすると彼にはその能力があってもなんらおかしくなど無かったが、しかし残念ながら俺に彼の思考を読むなんて能力は備えられていなかった。 「ジュギョウはちんぷんかんぷんだけどさ、それでもとても、楽しいんだ」 弾んだような彼の声は止まない。普段からにこにことなにを考えているのかわからないようなヤツではあったが、ぺらぺらと今のように口の回るヤツではなかった。とても珍しいものでも見た気分である(と言うのもおかしいもので、こうも弾んだ声でぺらぺらと喋ることは実際に珍しいことなのだが)。 「とても、いきてる感じがするよ」 そうして突然に俺に背を向け再び歩き出した彼の足取りも声と同じに弾んでいた。少しばかり小さくなった彼の背に追い付くように、俺も再び足を動かす。跳ねるように歩く彼の後ろ姿は見ていて大分に心地好いものであった。 「俺も同じだ」 「白竜?」 ぴたりと彼の跳ねるような足取りを止めてしまったのは少しだけ惜しく思う。ゆらりと前髪を揺らして振り返った彼の顔はやはり逆光によく見えなかった。 「俺もお前とこうして普通の学生のように過ごせるとは思わなかった」 「…なに言ってるんだい、普通の学生だよ」 くすくすと彼の圧し殺したような笑い声が響く。オレンジに燃え上がる夕日に、彼の身に纏う学生服の金色の釦が仄赤く輝いていた。 「白竜」 「ああ」 「僕は今、とても幸せだよ」 「ああ、知っている」 「君もかなあ」 「…自分で考えろ」 否定はしないんだね。 いかにも楽しそうに逆光に前髪が揺れたかと思えば、彼はまた真っ直ぐに伸びたコンクリートの道を弾むような足取りで歩いて行くのだった。 青い春と夕暮れのみち ---------- 匿名さまに捧げます! シュウ白で雷門転校捏造とのことでしたが如何だったでしょうか。せっかく素敵なシチュエーションをいただいたのにあまり生かせていない気が…。書き直しなどいつでも受け付けておりますので仰ってくださいませ! では最後になりますが、この度は企画にご参加いただき有り難うございました。 |