※絞首表現有り





普段なら誰より早くグラウンドに立ってボールを蹴っているような彼が、どうしたことか遅刻ギリギリの時間になっても姿を現さない。次第になにかあったのではないかとチームメイトたちがざわつき出したころ、彼の様子を窺いに行く役として教官から白羽の矢がたてられたのは言うまでもなく僕だった。



グラウンドから彼の自室まで距離はそう遠くない。もしかしたら珍しく寝坊でもしてしまった彼と鉢合わせてもなんらおかしくはないなと思いつつ冷たい廊下を渡って行く。しかし予想に反して彼の騒がしい叫びも慌ただしい足音もなにひとつ響くものはなく、まるで建物全体がしんと眠りについてしまっているようであった。彼の自室の前に着いてもそれは同様で、中からはひとの生気らしいものがなかなか感じられない。もしや入れ違いになってしまったのではないかと言う不安を抱えながらドアに手を掛けると、僕はとんでもない景色に出逢った。

「白竜…?」

部屋の中央、純白の海に沈むように行き倒れていたのは紛れもない白竜本人だ。背中にひやりと不愉快な感覚が走るより早く、僕は彼に駆け寄っていた。

「…しゅ、う…?」

ぐったりと四肢を投げ出す彼の身体のなんと熱いことか。上手く呂律の回らない彼を素早く抱き上げると、部屋の奥にこじんまりと設置されている簡素なベッドへと彼を運んだ。同時にジャージのポケットへ無造作に放ってあった携帯電話(支給されたものだが、実は最低限の機能以外よく使えない)を取り出し教官の番号を呼び出す。いつもならぎゃんぎゃんと五月蝿い彼の現在の様子を伝えると、機械のむこうにあんぐりとまさに開いた口が塞がらない教官を見て思わず笑いそうになったのは秘密だ。とにかく看病をしてから戻れという指示を受け、再び携帯電話をポケットへ放り、彼のひどく体温の高い身体に布団を被せた。

「…しゅう、俺は、練習、に…行かな、と…」

意識がはっきりとあるのは良いのだが、しかしいかんせん彼はじっと大人しく待てが出来るような人間ではない。ちょっと喋っただけで気管はぜいぜい言っているし真っ赤な顔にはうっすらと汗だって滲んでいるのに、練習なんて出来っこない。そんな猿でもわかるようなことを、どうして彼は理解出来ないのかと鈍く痛む頭を抱えた。

「…白竜君は…君はバカだ。今練習なんてしたら死んじゃうよ」

第一自分で歩くのだってままならないような身体のくせに、一体どうやって練習するのか。しかし彼はそんな僕のことを知ってか知らずか、彼が死んだっていいのだなんて口走るものだから、さすがに頭に血が上った。もぞもぞとベッドから起き上がろうと動く白竜を無理やり押さえ込み、体重を掛ける。所謂マウントポジションと言うやつだ。仄かに赤く染まった頬や首筋に彼の純白の絹糸が張り付く様は、厭に扇情的であった。僕の下で弱々しい抵抗を試みる彼を嘲笑うように、その白く細く伸びる首もとに手を掛ける。

「それなら今殺してあげようか」

そう微笑みながらじりじり力を込めていくと、さすがに恐怖を感じたのだろうか、深紅の瞳を目一杯に揺らしながらか細い声が謝罪の言葉を溢した。



それから暫くの間大人しく寝ていたわけだが、しかし彼のような人間には大人しくしていること自体苦痛らしくやけに僕に話し掛けてくる。さらにお前の看病などなくても究極の俺は云々などと憎まれ口を叩き出すものだから、こいつはとんだ厄介者を背負わされたものだと思いつつ、さらに粥や薬を拒むものなら殴り付けてやろうと心に決めた。



コールドゲーム



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絵の具さまに捧げます!
シュウ白で風邪ネタ、絞首とのことでしたが如何だったでしょうか…。書き直しなどいつでも受け付けておりますのでいくらでもどうぞ!
では、今回は企画にご参加くださり有り難うございました!









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