例えば、可愛いと評判のあるクラスメイトと楽しそうに話を弾ませていたときだとか。
例えば、上級生の綺麗な先輩がずっと君を見ていたのに俺だけが気づいたときだとか。
例えば、彼に渡して欲しいんですって小さな後輩から可愛らしい薄ピンクの便箋を渡されたときだとか。
ぎゅううっと直接心臓を掴まれたような、ぐりぐりと胃の中で大きな石が動き回っているような、身体の一番奥底のずっと下の方からなにか気持ちの悪いどろどろしたものが沸き上がってくるような、そんな。そんな汚くて穢らわしくておよそ人間のものだとは思いたくもない感情が押し寄せて、俺の中をぐちゃぐちゃに引っ掻き回していくんだ。これがなんなのか、何と言う感情なのか衝動なのか、残念ながら俺は知ってる。はは、俺も結局どろどろの汚くて穢らわしい人間だったってことだよ、せっかくお前はこんな俺を綺麗だって言ってくれるのにな。

「お前さ、最近なにか悩みでもあるんじゃないのか」
「…なんのことだ?」
「神童、」

きらきらと薄く水の膜を張って、じっとまっすぐに俺を見つめるスカイブルーの瞳はきっと、穢れなんてもの知らないんだろうな。だってとても、そうお前はいつだってとても綺麗だ。なのに俺はこんなにも汚くて穢らわしくて、これじゃああのクラスメイトと先輩と後輩と女たちと、まるで一緒じゃないか。

「そんな泣きそうな顔するなよ神童、せっかく綺麗なのが台無しだぞ」
「霧野…」
「ほら、お前は笑ってる方が格好いいって」
「…すまない、霧野」

俺のなかの汚くて穢らわしくてどろどろしたものを、ほんの少しでも清算できればと謝罪の言葉なんて述べてみても、意味なんてものがないのは知っているんだ。そしてそんな俺の汚い人間部分なんか知らないお前は、やっぱりとても綺麗に微笑むのだろう。

「なんだよ謝るなよ神童、俺たち親友だろ」

ぴき、ぴき、となにか自分の身体の一番奥底のずっと下の方から、割けるような割れるような壊れる音がするんだ。ごめん、霧野。声には出さず、もう一度だけ、謝罪の言葉を呟いた。

「…ああ、そうだな!」

ぱきん、と身体中を震わせて響き渡るのは、ああ崩壊の音。いびつに歪んで持ち上げた口角、爛々と奥に光る細めた瞳。こんな俺を見て、やっぱりお前はいかにも満足気に俺を綺麗だと言うのだ。

「うん、お前にはそっちの方が似合ってるよ、綺麗だ神童」

有り難う霧野、でも俺、天使やなんかじゃなく汚くて穢らわしくてどろどろの人間なんだよ。

「…有り難うな霧野」

ぎゅううと一層瞳を細めて、いっそ馬鹿みたいに歯を見せながら笑ってやれば、お前は嬉しそうにまた「俺たち親友だからな!」と微笑むのだった。



天使になれない



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なあこさまに捧げます!遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
蘭←拓で嫉妬とのことでしたが、うまくリクエストに沿えているでしょうか…。これ拓蘭だろ!や、これって嫉妬か…?などなにかありましたらご連絡くださいませ!すぐに書き直しいたします〜!!
それからお祝いの言葉や応援の言葉まで、有り難うございます。なあこさまの優しいお言葉に、とても励まされました!
最後になりましたが、今回は企画にご参加くださり有り難うございました!









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