「ここに、人生のリセットボタンがあります」
「…は?」

目に痛い緑色の髪をひょこひょこと揺らす目の前の少年は、いたっていつも通り、唐突かつ意図のまったく理解出来ないことを言い出した。

「だから、人生のリセットボタン」
「そんなもの無い」
「…相変わらず頭固いね、君は。じゃあ、あると仮定する」
「意味が…」
「いいから!」

ぴっと人差し指を突き出した彼が、そのまま私の眉間をつつく。鬱陶しいと払うと、ケチ、と唇を尖らせた。べつに可愛くないが、と言おうとして思い留まる。また鬱陶しさに磨きがかかるだけであることなんて、容易に想像出来るからだ。

「じゃあ、いいね、ここに人生のリセットボタンがあるんだ」
「それで」
「うん、それで、君はそれを押すかい?」
「……そんな得体の知れないもの」

押すわけがないだろうと言うと、彼はつまらないなあと小さく溜め息を吐きながら首をゆるく左右に振った。ついでに、肩を竦めてみせる。

「だってまったく新しい人生を歩み直すわけだよ、素晴らしいじゃない」

そうして大仰に両手を広げて見せた彼に、しかしいまいちよく理解出来ない。緩やかに首を傾げたまま彼を見ていると、途端に肩を落とした彼に「つまらない」と言われた。

「つまらない、アルファ、つまらないよそれじゃあ」
「そうか」
「なに、それ。なんか腹立つ」
「悪い」
「思ってもないくせに」

もういいよ、とどさりと重量のある音をたてて床に身体を投げ出した彼の、ばさりと広がった髪を撫でる。その行為に特に理由などなかったので、急になに、とじっとりした視線を投げつけてきた彼にもきちんとそう返しておいた。

「まったく新しい人生の方が、つまらないだろう」
「…なんでさ」

暫くの間、と言ってもほんの数分、私たちの間に珍しく流れた沈黙を破ったのは私だ。自分から彼に話し掛けることなどそうそうないので、自分でも驚いてはいたが彼はもっと驚いた様子であった。声は普段となんら変わらず落ち着いていたが、嫌な好奇心に爛々と輝く瞳までは隠しきれていない。私は彼のそういう素直なところがわりと好きでもあったし、その好奇心に溢れた瞳がなにより嫌いでもあった。

「そうしたら、私は、お前に逢わなかったかもしれないだろう。だから、私は」
「アルファ」

ぎゅうう、と唐突に抱き締めてきた彼の腕は、息の苦しいほどに力強かった。彼の行動も言動も、いつも唐突で未だにわからない。そういうところがやはり苦手で、第一、まだ話し終えていないと言うのに。

「ごめん、そうだね。僕はしあわせものだった」

それでも、こうして人懐こい笑顔で苦しいほどに抱き締められるのは、たぶん、嫌いではないのだ。大好きだよ、と少し鬱陶しいくらいに耳元で囁く彼に、小さくそうかとだけ返しておいた。



幸福者の結論



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えだまめさまに捧げます!遅くなってしまい申し訳ありません。
フェイアルということ以外特に指定がなかったので好きに書かせていただきましたが…どうでしょう…。なにか不具合がございましたら仰ってくださいませ。書き直しならいつでも受け付けてありますからね!
では、この度は企画にご参加くださり有り難うございました!









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