夏にだけ現れる人がいるの。とてもとても変な話なのだけれど、聞いてくれるかしら。私、私ね。私、どうやら、その人のことが好きみたい。ううん、帰省とか、そういうんじゃなくて。だって彼ヒトじゃないもの。 ∴夏の暮れに君を待つ どーん、と間抜けな音が響いた。それからごうごうと燃え立つ炎の色が目についた。ああ、燃えているなあ。うん、燃えているね。暑そう。うん、熱そう。僕と彼女はこうしていつだって噛み合わないのだ。悲しいことに。 ∴水素爆発 酸素、酸素、二酸化炭素。なんだかなああと頭がぐらり。揺れる揺れる視界の中でひゅうひゅうとうるさく気管が叫ぶ。それから酸素、酸素、二酸化炭素。ぐらぐらぐらり、あああなたが私をあなたは私に。あ。 ∴過呼吸症候群 彼女は終始部屋の隅で泣いていた。静かに静かに泣いていた。短くそろえられたクセっ毛が、本来の彼女の活発さを物語っていた。僕の周りの大人も子供も皆泣いていた。静かに静かに泣いていた。写真の中の彼女の為に。 ∴あなたは世界の何にもなれずに ほらみて、夕暮れ。きれいねえ。そうしてベッドから彼女が指したのは真っ暗な夜空であったのだから、私が返答に困ったことは言うまでもない。そうねえきれいねえとでも言えばいいのかもしれないが、私は律儀なので。 ∴潔癖症 ねえ、知ってる。あの一番輝いてる星、私なのよ。やだ、冗談なんかじゃないわ、そりゃあにわかには信じ難いでしょうけど。あの星は、私なの。もっと正確に言うと、私、もうすぐあの星になるのよ。浪漫チックでしょ。 ∴遺言 |