いつかどうしても悲しいときに | ナノ

 青峰大輝、という人間に憧れてバスケ部に入部した。
 大抵のスポーツならなんでも出来た。そういえばまだバスケはやってないと思って見てみたら一瞬で惹かれてしまった。それからバスケを始めて、二週間、ようやく一軍に辿り着いた。それでもまだ青峰っちには勝てたことはない。納得のいかないこともあったが、青峰っちに勝つことを考えている時は、それだけしか考えられなくなって気持ちがいい。
 その青峰っちには仲のいい女の子が二人いる。幼馴染みなのだと聞いた。桃ちんは、ただの腐れ縁だと言っていたが、ほんとうに仲がいい。もう一人の幼馴染みは滅多に姿を見ない。青峰っちから聞けば、泣き虫だとか言っていて、桃ちんが二人かあと思っていたオレは面喰ってしまった。泣き虫とかめんどくさそうなのは、青峰っちは嫌いだと思っていた。世話が焼けるやつだよ、と笑う青峰っちに、でも青峰っちはいつも桃っちに世話焼かれてるっスよね、と言うと肩パンを喰らった。
「でも姿みないんスけど…来てるんスか?」
「ユズルなら洗濯とかドリンク作ったりしてるぜ」
 桃っちはスコア付けたり笛吹いたり、割と一軍の近くで作業しているのを見かけるし、三年のマネージャーも同じような場所で仕事している。それがまた洗濯とか、雑用もいいところの仕事をいつもしているとは不思議な話だ。
「さつきはさつきができることを、ユズルはユズルができることをやってるだけだ」
 名字はまだ分からないが、名前はユズルっていうのか。
 
 
 ユズルちゃんを見かけた時があった。背の低い、髪が長い女の子だ。顔まではっきり見たわけではないが、見るからに不健康そうな肌の色と鶏ガラのような手足だった桃っちと並ぶとそりゃもう正反対。青峰っちと並ぶととても同い年には見えない。常に下を向いているような女の子だった。正直バスケ部のマネージャーって言われたら疑うほどだ。ああ、そういえば同じクラスにいたような気もする。ユズルちゃんが喋ることは滅多にないし、席が近くになったことはない。一度も話したことがないから、印象にも残っていない。確かにクラスだと泣きそうな顔をしている。かろうじて緑間クンと喋っているのを見たことがある。同じバスケ部だし、去年も同じクラスだったという。あの緑間クンとはよく話しているな。たまに変な小物をユズルちゃんに渡しているのを見たことがある。きっとラッキーアイテムとかそういうよく分かんねえもんだろう。
 そんなユズルちゃんだけど、笑う時がある。緑間クンとしゃべるときも少し笑っているが、青峰っちと桃っちと一緒にいるときが、一番笑っている。
 業務連絡で話すときもあるが、すぐ目線をそらすし、身長差の関係で見下ろすことになってしまうためそれが怖いのか、泣きそうな顔をしている。正直、オレも対応をどうすればいいのか分からずそっぽを向いて返事をするしかない。
 今まで接したことはなかったのだが、泣き虫の女の子というのは、とても面倒臭いのだ。
 

20120529
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -