いつかどうしても悲しいときに | ナノ

 ふと気付いたのだが、このクラスにはバスケ部が何人かいる。二軍三軍と続くから、そりゃ部員数は多いけど。その中で、一軍なのはオレと、紫原クンくらい。あとは、マネージャーのユズルちゃんだ。連絡は大体紫原クンから、最近はユズルちゃんから来るようになった。夏が近いのも、関係しているんだろう。
 そんな中、困ったことがある。ユズルちゃんの声が小さいのだ。見るからに喋るのが苦手そうなユズルちゃんの声はとても聞き取りづらい。ちょっと屈んで、顔を近づけると確実に聞こえる。そういやあの緑間クンとユズルちゃんもこうやって話していたな、と思う。二人はたまに笑いあってるから、てっきり付き合ってるものだと思っていたけど、こういうことか。相変わらず俯いて目を合わせようとせずに、話す。ちょっと目が合えばすぐに逸らされる。モデルをやっているのでそこそこ容姿には自信がある。確かにそういった意味で目を逸らす子もいるけれど、ユズルちゃんからはそんな感じがしない。むしろ、いつもおびえているように見える。
 ときどき、なんだか知らないがよく話しかけてくる、中学生にしては大人びた女子がユズルちゃんを睨みつけているのをみたことがある。あの子、誰、なんて聞くから部活のマネージャーだと答えれば面白くないといった顔をしていた。マネージャーなんて桃っちを始め、まだまだいるというのになんであの子なんだろうと思えば、あの話し方が気に食わないらしい。幼馴染みは別にあんな話し方はしないが、緑間に加えてオレにもああやって話すのが気に食わないらしい。色目使ってんじゃないわよと吐き捨てるように呟いた言葉は、聞こえないふりをした。
 
 
 夏が近づく季節と言うのは、湿気もともに連れてくる。暑いだけでなく、じめじめとした中での部活は、本当に嫌になる。照りつける太陽がないだけ、バスケ部はマシかもしれない。お陰でタオルだビブスだ、と水分を含んだ布は気持ち悪い。
 ミニゲームを終えたあと、ユズルちゃんがやってきた。この体育館だけではなく、他にも回っているのか不釣り合いなほど大きな籠を抱えている。皆当たり前のように籠に洗濯物を入れていく様子を見て、オレもみんなに倣い入れていく。オレだったら、桃っちみたいにスコア付けたり、笛吹いたりしてるほうが楽しい。近くで見れるわけだし。誰も見てないような仕事は、なんだか誰にも褒めてもらえるわけでもないので、つまらない気がする。洗濯物がたくさん入った籠を持ちながら、ふらふらとユズルちゃんは体育館から消えていった。
 あれをずっと繰り返してんのかな。マネージャーに一軍二軍なんてものはないだろうけど、雑用ばかりだといつまでも試合に出させてもらえないような感覚がして、少し悲しい。


20120531
20120608 加筆修正
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