いつかどうしても悲しいときに | ナノ

 少し大きめのサイズで買った制服も、いつの間にかちょうどいいサイズになっていた。
 大体見覚えのあるような顔ぶれで教室は埋まっている。四月、わたしは三年生になった。まっさらな黒板を背に、新しい担任だという男性が、何やら語っている。回りくどい言い方に欠伸がでてしまいそうなのだけど、要約すると受験生なのでその辺気にしながら中学最後の学校生活を楽しめと言うとこだった。進路希望調査と書かれたプリントが回ってくる。
 進路希望調査。志望校をいくつか書かなければならないのだけど、今はまったく思いつかない。大ちゃんはどうするのだろう。征十郎くんや緑間くん、黄瀬くん、紫原くんは。彼らはきっとバスケの推薦だって、スカウトだってあるだろうし、どの高校だって欲しい人材だろう。きっと、みんな一緒にまたバスケをするということは、ない。今度は敵としてバスケをするのだろう。さつきは、どうするのだろう。大ちゃんと同じ高校にするのかな。それとも、テツヤくんと同じ高校にするのかな。そうだ、テツヤくんはどうするのだろう。わたしは、どうしたらいいのだろう。
 先生はまだ説明しているけど、わたしはプリントを静かにファイルに入れた。
 
「ユズルは考えてる?進路」
 久し振りにクラスが一緒になったさつきとの帰り途、ぽつりと呟いた。首を振って否定して見せると、だよね、とさつきは溜息をついた。
「さつきは、どうするの?」
「テツ君と同じところがいいんだけどなあ。でも、あいつが心配だから、あいつと同じところかなあ…ねえ、ユズルも、」
 一緒の所だよね。控え目に言われたけど、どこか確信めいた言い方だった。わたしたちは、幼いころから家族同然で育ってきた。何をするのも一緒だった。特別行きたい高校がなければ、それでもいいかもしれない。でもそれでいいのだろうか。大ちゃんが行くところは、きっと強豪校だ。さつきみたいに貢献できるわけでもないのだ、わたしは。今まで帝光でやれたことも、或る意味奇跡に近い。みんなが優しかったけど、これからもそう都合よくできるものだろうか。
「……いや?」
「違うよ、さつきたちがいやなんじゃないよ。ただ、一緒の所に行って、今まで通りできるかなって考えたら、そもそも必ず合格するわけじゃないと思うの、わたしは…」
「そんなことない!」
 さつきの怒鳴り声が響いた。今にも泣きそうなさつきが、わたしを見ている。
 ねえさつき、さつきたちと一緒にいることが嫌なんじゃないよ。ただ、本当にそれでいいのかなって考えてるだけなんだよ。わたしはさつきの子供じゃないし、もう事故にだって遭わない。さつきは心配性だから仕方ないかもしれないけど、もう大丈夫だよ。
「そんなこと、ない…」
「…まだ四月だし、考える時間はあるから、考えとく…」
 押し付けてごめん、というさつきの言葉に、何も言えなくなってしまう。まとわりつく嫌な沈黙をつれて、わたしたちは帰路に就いた。

20120731
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