Love Call from the World | ナノ

「ねえ持田、本当にいいの?」
「何が?」
「週末。オフなんでしょう」
 斜め下、おそらく持田の足元あたりを見つめて知世は呟いた。一向に顔をあげようとしない知世にいつもの勢いはない。先ほどまで飛び跳ねて喜んでいたのに、数時間たってこの沈みようである。
「子どもがそんな心配すんなよ。俺がいいって言ってんだからいいだろ」
「…………でも」
「……………………」
 言葉を詰まらせはっきりとしない知世に、持田は首を傾げた。知世も知世で、自分自身はっきりしないこの気持ちに苛立ちと戸惑いを隠せないでいた。持田の言葉がひっかかって離れない。
 「知世なら」。その言葉がずっと知世の中で重く沈みこんでいた。持田にとっても、東京ヴィクトリーに関してもいいことであるのは知世自身理解している。スキャンダルには付き纏われたくないものである。子どもで、おおよそ恋人とはかけ離れた知世であるならば、そんなスキャンダルにもならないだろう。いいことのはずが、知世をきりきりと締めつけた。ずんと重く圧し掛かるその言葉は死刑宣告のように鳴り響いた。
 持田の中ではわたしは子どもで、監督の姪で、つまりどう頑張っても思い描いていた未来には辿り着けないのだと、知世は感じていた。恋に恋してる。憧れ。初恋だと思っていたものの正体は、達海のいうそれらだったのか。あれだけ力強く違うと否定できたのに、今は疑問すら抱いてしまう。そんな自分が嫌で、情けなくて、消えてしまいたかった。
「俺がいいっていってんだからいいの。子どもが変な心配すんじゃねーよ」
 いつもと違う、優しい手つきで頭を撫でられる。嬉しいはずの持田の手が、今はとても悲しい。目線を上に向ければ、知世よりもはるかに背の高い持田が見える。持田のもう片方の腕は腰の方にあてられている。ごつごつとした、知世の腕とは正反対の腕。頭を撫でる掌はとても大きい。この一メートルにも満たない距離が、とても長く思える。
「…わかったわ」
「それでいいんだよ」

 「将来はよく悩んで、よく考えなさい」。平泉の言葉を知世は頭の中で反芻する。今までもこうやって考えてきたつもりだったのに、持田の言葉でこうも揺らいでしまうのか。恋に恋なんてしていない。憧れなんかじゃない。そう思っていても、理由が見当たらない。すきだけじゃ駄目なのだろうか。ぐるぐると考えていても、答えはどこにも見当たらない。

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テーマ「人外ファンタジー」
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