Love Call from the World | ナノ


 おじ様はいつもわたしに、将来についてはよく悩み、よく考えなさいと言う。出張の多い両親の代わりにおじ様はよくわたしの面倒を見てくれた。そんなおじ様がわたしに注意することはいつもこれだった。だからわたしはよく考えて、悩んで行動しているつもり。
 持田の第一印象は最悪だった。女の子にすることじゃないわって思った。しまいには弄り倒したいとか言うし。そんな持田は、おじ様のようにわたしに接してくれた。練習を見に行ったときに会えば、とりあえず話してくれるし構ってくれる。ときどきすごいかまってちゃんだけど、それも嫌いじゃない。ときどきわたしをどこかへ連れまわしてくれる。最初は酔うかと思った持田の運転も、今じゃもう慣れてしまった。わたしと張り合えるくらいに子どもみたいに振る舞ったりしてるけど、まあそんなところも好き。右足の怪我とかで、ときどきナイーブになってるみたで、わたしもできるかぎりは力になりたいと思ってるけど、なれてるかは微妙。わたしは子どもだし。
 持田の半分くらいしか生きてない子どもだし、生意気だし、あれだけど、まあわたしは持田が好き。多分おじ様はこのことについて言ってるんじゃないかと思う。子どもによくある、憧れから大人を好きになったり、恋に恋するお年頃だって言いたいんじゃないかなあと思ってる。そうかもしれないけど、好きなものは好きだもの。よく悩んで考えたけど好きなんだもん。
 持田はあれでも大人だし、こんな小娘のことは近所の子供くらいにしか思ってないかもしれない。でも、持田にはっきりと言われるまで、思っててもいいよねなんて、思ってたりする。


「どうした知世、えらく不貞腐れてるじゃないか」
 平泉が隣の知世に尋ねれば、口を尖らせてそっぽを向いてしまった。おおよその事情は彼女の両親から聞いていたものの、ここまで拗ねているのは珍しかった。子どもなのにやけに大人っぽいと思っていたが、まだまだ子どもだったということかと、平泉はその年相応の態度に心の中で微笑んだ。
「週末の…遊園地に行く約束、つぶれっちゃったので………」
 随分久しぶりの家族団欒だと、嬉しそうに話していた彼女の両親を思い出す。よっぽど楽しみにしていたのだろう。
「お父さんも、お母さんも忙しいのは分かってるけど、残念なのは残念よ」
 はあ、と溜息をつく。
「なに知世ちゃん沈んでんの?」
 にゅっとのびた手は定位置だと言わんばかりに知世の頭に乗せられた。その手を気にすることもなく知世はまた溜息をつく。いつもなら噛みつくぐらいの反応を見せるのにやけに大人しい知世の態度に首を傾げた持田は平泉を見た。持田と目を合わせた平泉は、一度知世を見ると口を開いた。
「週末遊園地に行く予定だったんだが、両親に仕事が入ってしまってな」
「ああ、それで拗ねてんの。まだまだ子どもだなー」
「…………」
 うりうり、と頭を乱暴に撫でられるのもされるがままである。持田はそんな知世の頭を一頻り撫でまわした後、ふむと考え始めた。
「週末って、今週っすか?」
「そうだが」
「………俺がつれってってあげましょうか」
 持田の言葉に名前は驚いて顔をあげた。やっと顔をあげた知世の顔は、隣の平泉と同じく唖然としていた。
「確か今週試合ないしオフだし、知世なら週刊誌にとられる心配もないでしょう」
「まあそうだが…」
「監督の姪を悪いようにはしませんよ、一緒に遊園地行くだけです。ちょっと気分転換したいもんですから」
「…………知世がそれでいいのなら、良いんじゃないか?」
「どーなのよ知世ちゃん」
 知世は少し考えたあと、目を輝かせて頷いた。平泉は自分からも知世の両親に伝えておくからきちんと言っておきなさい、と言うとうん、うん、と喜び跳ねまわった。
「持田!ありがと!」
「おう感謝しろよ」



 知世ちゃんっていうのは、ウチの監督の姪っ子らしい。姪と言うものの、本物の親子のように仲がいいらしくよく練習を見に来る。身長も年齢も俺の半分くらいしかねーんじゃねーのってくらいガキのくせにやたらと大人みたいなことを喋る。構う面白い反応が返ってきて楽しい。最初車に乗せたとき、本当に目を回していたときはマジウケた。
 そんですげーまっすぐ。羨ましいくらいに素直。俺にはないものをたくさん持ってる、気がする。勝手に拉致して連れまわしたとき、素直についてくるし、言わなくても俺のことよく分かってやがった。好きだよ、って言われたとき柄にもなく嬉しいとか思ってしまうし。あれだけまっすぐに言われると恥ずかしいのが本音だ。多分、あいつはいつも本気で俺と接してんだろう。好きだっていうのも、相当考えた上で言ってんじゃねーのかって思う。
 お兄様って呼ばれた時、なんか嫌な気分になってそう呼ぶのを止めさせた理由を、もう俺は知ってんだろうと、まるで他人事のように考える。ただ、俺はまだ色々覚悟がないんじゃないかと、思うのだ。このことに関しては。


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