Love Call from the World | ナノ

「おっ知世ちゃん来たのかよ」
「持田に会いに来たわけではないわ!練習を見に来たの!」
 勘違いしないで!と言い張る知世をにやにやと持田は見つめた。自分よりはるかに小さい知世は健気に自分を睨みつけている。猫みたいだと、いつも持田は思っていた。ぽん、と知世の頭に手を乗せてみる。持田の手を振り払おうとぶんぶんと頭を振りだした知世に、持田はどうしようもなく可笑しくなった。そんなもので俺の手が振り払えるかよ。そのままぐしゃぐしゃっと頭を撫でてやる。綺麗に結われていた三つ編みは嵐にでもあったのかというくらい無残な姿となった。
「ちょっと!なにするの!」
 べし、と大して痛くもない力で持田の手は叩き落とされた。知世はぶつぶつと文句を言いながら少し持田と距離をとる。髪をほどき、手櫛で髪を整える知世を、今度はじいっと見つめた。視線が気になるのか、知世は落ち着かない様子だった。言いたいことがあるならいいなさいよと持田に告げると、持田は顎に手をあてて、何か考えるような動作をした。何を思ったのか、髪、とだけ呟いた。意味が分からず知世は頭に疑問符を浮かべたが、持田はそれ以上何も言わずに知世をみつめるだけだった。
「結構長いんだな」
「……まあ、結んでるし…」
 おかしなことを聞くもんだと知世は持田を訝しげに見つめた。すると持田の手が再び知世のほうに向かってきたので、知世はすかさず頭をガードした。またぐしゃぐしゃにされる!と防御したが、いつまでたっても持田の手は来なかった。持田の手は知世の胸元あたりまで伸びる髪を触っていた。恐る恐る頭のガードを解き、知世の髪を指に絡ませて遊んでいる持田を見つめる。何が面白いんだこの男は、と知世は悩んだ。
「結んでやろうか」
「え?」
 持田は視線を自身の指に絡めた髪から動かさず、そう告げた。突然の持田の申し出に、知世はただただ驚いた。
「…って、持田は練習でしょう。自分で結べるわよ」
「練習はまだだっつーの。時間はあるから気にすんな。ホラホラ、そこに座れよ」
 座れよと促しているものの、知世は持田に強引に座らされた。持田の考えが分からないまま座った知世は、何か言おうと持田のほうを振り向いたが、「動くなよ」と知世の頬を両手で挟んで無理矢理前を向かせた。背後に持田がいることがとても不安だったが、こうも強引にやられては知世のなす術はなく、すぐに大人しくなった。
 変な髪型にされるんじゃないか、痛くされるんじゃないかなどと不安ばかりが積もっていく。持田の手が知世の髪を梳いた瞬間、知世はぎゅっと目を閉じた。しかし想像していた恐怖は襲ってこず、持田はいつもの持田から想像できないような優しい手つきで髪を梳かしていった。
「ゴム出せよ」
「ん」
 にゅっと横から差し出された持田の掌に、持っていたゴムを乗せる。真面目に髪を結ぶのかと知世は感心した。しかし、不安はどんどん生まれるもので、今度は持田がちゃんと髪を結べるのだろうかという不安が生まれた。
 そんな不安はまたすぐ消えるもので、知世が想像したよりも持田は器用だった。いつも下のほうで三つ編みばかりしていた知世だったが、どうも持田は少し上のほうで二つに結んでいるようだった。なんでこの男はそんな芸当ができるのかと思いながらも、知世は持田に身を委ねた。
「オラ、できたぞ」
 知世は自分の髪型を確認するように触れた。ツインテールとまではいかないものの、いつもよりは高めに結ばれた髪は、いつもと違って少し慣れない。しかしいつもと違う自分に興奮したのも事実だった。
「持田もやるわね!」
「まあ俺だしな。素直にお礼でも言えばいいだろ」
「ありがと持田!」
 ぴょんぴょんと喜びを体現する知世を、持田は眺めていた。飛ぶたびに一緒に跳ねる髪が、うさぎの耳を連想させた。こういうときだけは素直なんだよなあと持田はしばらく知世を眺めていた。
 しばらくするとチームメイトもぞろぞろと集まり始めた。自分の髪を触っては喜ぶ知世をちょいちょいと呼び寄せる。いつもなら警戒してばかりで恐る恐るしか寄ってこない知世だったが、喜びで忘れているのか素直に持田のもとへと寄ってきた。にこにこと持田を見つめる知世の頬に手を伸ばす。知世は嫌がることなくそれを享受した。そればかりかふにゃっと笑いながら持田の手を気持ちよさそう受けていた。そのまま、もう片方の手も知世の頬に添えて、ぐいっと横に引っ張る。
「ぎゃっ!」
 柔らかい頬はぐいぐいと引っ張られた。何か言おうと必死になっている知世をよそに、持田は知世の頬の伸びを楽しんでいた。子供特有の柔らかさを堪能していると、自身の手に知世の手がかかったことに気づき手を放してやると、ものすごい勢いで知世は持田と距離をとった。
「痛いじゃないの!」
「いやー柔らかいね」
「痛いって言ってるの!」
「あーはいはい悪かった悪かったゴメンゴメン」
「誠意が感じられないわ!」
「おっ賢そうなこと言うねー」
 ギャハーといつものように笑い転げる持田を知世はキッっと睨みつけた。知世はこの野郎と言わんばかりに持田の胸板を叩き続けるが、持田には愛犬がじゃれてくる程度にしか感じられず全く効果はなかった。
「じゃー俺は練習だから」
 そう伝えれば少し照れくさそうに「けがには気をつけて」と言う知世に、これだから飽きないし楽しいもんだと持田は思いながら、手を振ってグラウンドへと向かった。

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