Love Call from the World | ナノ

「おじ様、お久しぶりです!」
 お世辞にも華やかとはいえない、殺風景なグラウンドに似つかわしくない子どもの声が響いた。おじ様、と呼ばれた平泉は声のする方へと振り向くと、制服に帽子、綺麗に結われたおさげがぴょんぴょんと揺れる、子どもが駆け寄ってくるのが確認できた。時計を見なくても子どもには遅い時間と知らせる夕暮れを背に、子どもは気にせず走ってきたのである。
「知世、もう遅い時間だろう。両親が心配するぞ」
「連絡は入れました!もうすぐ東京ダービーなのでしょう?ちょっと見てみたくなったので!」
 大丈夫大丈夫と言い張る知世だが、平泉は気が気でなかった。どこからどう見ても子どもであるし、学校帰りですと言わんばかりの制服姿でこんな時間までうろついているとなると、姪っ子という贔屓目で見ても可愛いと思える知世は誘拐でもされるのではないかと心配していた。しかし知世のお転婆は留まるところを知らず、こうやって度々東京ヴィクトリーの練習を見に来たりしていたのである。知世の両親はいいじゃないかと気にしておらず、もう一人でどこへでも行けるわねなどと我が子の成長に感動するくらいだった。平泉は自分の弟夫婦はどちらもどこか抜けていると再確認する羽目となり、少し不安になった。
「今度の試合はお父さんもお母さんも用事があって行けないけど、わたしは行くので安心してください!」
「一人で大丈夫なのか?」
「大丈夫です!」
 おじ様のチームを応援するのです、と意気込む知世に、平泉はこれ以上言っても無駄だと認識した。可愛い姪っ子が危ない目に遭うのではないかと心配なのである。できることなら保護者同伴できてくれることを願っているのだが、誰に似たのか知世は頑固でするといったらする性格だったので、そうもいかないだろう。お使いを頼まれた子ども特有の使命感に似ている何かを知世は抱いているようだった。気をつけなさい、と注意すれば知世は笑って返事をするのだった。
「ETUはなんだか新しい監督、みたいですね」
 伯父と手を繋いで歩くのはどうだろうかと平泉は悩んだが、知世は気にすることなく平泉の手を握るので、そのままクラブハウスまで歩いていた。公私混同はなるべくしないと思う平泉であるが、もう練習は終わったのだしいいかと自分に言い聞かせたのだった。
「どんな人なのですか?おじ様、タツミタケシって人、知ってますか?」
「ああ、奴は中々油断できない相手でね」
「なんだかひねくれてそうな顔してますけど、うーん…あなどりがたしタツミタケシ…って感じですか…」
 むむ、と達海の顔を思いだしているのか、何を考えているのか知世の眉間の間には皺がよっていた。
「でもでも、城西お兄様とか秋森お兄様とか、東京ヴィクトリーには日本代表もたくさんいますもんね!…………持田とかも……」
 持田を思い浮かべたのか、知世はものすごく険しい顔になった。こうやってちょくちょく顔を出す知世は、平泉の姪ということもあって、選手と話す機会もときどきあった。人見知りの知世だが打ち解けてしまえば懐いてしまうので、優等生のような城西や、なんだかんだで良い奴の堀にはすぐに懐いた。どんどん仲良くなっていくそんな中、現れた持田は第一印象から最悪なのだった。城西と平泉の陰に隠れた知世を良いおもちゃを見つけたと言わんばかりにニヤニヤと見つめ、チビ呼ばわりし、おさげを引っ張ったり、頬を引っ張ったり、知世を愛車に乗せ荒い運転で連れまわしたり、犬が怖いと言えば知世の目の前に犬を持ってきたりと子どものようにちょっかいをかけてきたのである。持田が思い描いたように知世が面白い(知世にすれば面白くもなんともないのだが)反応をするので知世は持田のお気に入りになったのである。
「認めたくないけど、持田上手いしエースだし…嫌がらせはやめてほしいけど」
 なんだかんだで持田は知世を気に入っているのか、会ったら必ず構っている。チーム内で一番話す選手はきっと持田だろう。
 一度知世が「持田はかまってちゃんなのね!」と言ったことがあったが、持田は「そうだよだから知世ちゃんかまってくれよ」と周囲から見ればうざったいことこの上なかったのである。しかし子どもの知世は真剣に持田に付き合い、もうどちらが大人かわからないくらいである。いやよいやよも好きのうちという言葉を知世が知っているかどうかは分からないが、平泉から見た知世はこの言葉が一番しっくりするのではないかと思っていた。
 まさか持田はそっちの道の人間なのだろうか、別に軽蔑するわけではないが、もしも知世と持田が結婚するだなんて言い出したらどうしようかと平泉は焦った。妹ができた感覚だということを信じるしかなかった。
「知世、持田のことは嫌いか?」
「………嫌いじゃないけど………うー…好きよ、多分」
 拗ねたように前を見つめる知世を見て、平泉は驚いた。あれだけ拒否反応をしていた知世の口から「好き」という単語が出るなんて!
「選手としてよ、おじ様!勘違いなさらないでください!」
 そんな赤い顔で言われてはどうしようもなかった。恋に恋をしているだけだと信じたい。
「知世、とりあえず将来のことはきちんと考えなさい。もう遅いし、帰ろうか」
「…?あっ、おじ様、わたし、一人で帰れます!道も覚えたんです!」
 平泉の心配は底なしである。

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