Love Call from the World | ナノ

 きゃあきゃあと楽しそうな声が聞こえる。何でもない日に来たためそこまで客は多いようには見えないが、それで遊園地は何処を回っても人でたくさんだった。はぐれないようにと繋いだ手の主―――知世はきらきらと目を輝かせ、今手を離せば飛んでいきそうなほどである。次はあれ、これ、とアトラクションを回っていく。いつもは引っ張り回す側の持田は、大人しく知世についていく。
「楽しいか知世ちゃん」
 やれやれと言った風に持田が問いかける。シンプルな格好に眼鏡。いつもの持田と違った格好は、まるで別人のようで不思議な感じがした。わたしが今、会話しているのは誰だろうか。そんな疑問すら浮かんでくるようだ。片手で数えるほどであるが、こういった格好の持田を見かけたことはあった。その時とはまた違った違和感が、知世の中で渦巻いている。これも持田なのか、そうでないのか。まるで違う、大人がそこにいた。
「楽しいわ、持田は?疲れた?」
 どうしてか持田の顔を見るのが恐ろしかった。前を向いたまま、持田に尋ねた。行きかう人の楽しそうな声が遠く聞こえる。
「子どもはそんなこと気にすんな、そろそろ飯にするか」
 ぽん、と持田は知世の頭に手を置くと、知世の前を進んでいった。ずんずんと進んでいく持田に置いて行かれないよう、ついていくので知世は精一杯だった。
 
 あれから、持田から見た知世は元気がないように見えた。どこか上の空な節があると思えば、持田の機嫌を窺うようなことを言う。あれだけ正直な知世なのだ、やはり嘘はつけないようで顔に書いてあるようなものだった。
 はぐれないようにと繋いだ手はとても小さく、柔らかい。ふとした瞬間に、知世は子どもなのだと思い知らされる時がある。口達者で真っすぐとした性格はとても子どもとは思えないのに、ふと意識した瞬間、子どもなのだと思い知らされる。
 そんなこと関係ないと割り切ればいいのに、出来ない臆病な自分がいる。知世のように正直に生きれたらと思う時がある。知世も成長したらどうなるのだろうか。うまくいかないことも自由も減って、それでもなお真っすぐでいられられるんだろうか。大人になったら俺よりももっといい男だって出てくるだろう。未来のことなんて分かるわけがない。今ここで俺が知世の未来を制限してもいいのか。そう思うと、あと一歩が踏み出せないでいた。

「知世ちゃん」
「なあに」
「パレード見てから帰るか」
 日も暮れて薄暗くなった遊園地に、ぽつぽつと明かりが灯り始める。のびた二つの影を見つめながら、持田は呟いた。知世も持田と同じように影を見ながら、ゆっくりと頷いて返事をした。それから、ぎゅっと手を握り直した。
「まだ時間があるわよ」
 そうだな、何処行くかな。そう持田は呟いて、知世と二人で夕暮れの遊園地の中へ溶け込むように再び姿を消していった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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