黒子テツヤという人間は、かわいい。
　彼の友人に比べると彼自身は身長が低い。水色の髪の毛は、ソーダシャーベットみたいな、爽やかな色だ。ぼうっとしているような表情を構成する瞳も、透明な水色なのに、底なし沼のように深い底を窺わせる。成長が止まってしまったような身体は、どこか女の子を思わせるくらいに華奢だ。多分、彼の肌の白がそれを増長させているんじゃないだろうか。
　それでも、バスケが好きだと言う彼の腕は意外とがっしりしている。わたしのぷにぷにしたお腹とは正反対の、ちょっと固いお腹だ。うっすら線が見えるのは、彼の努力の証だろう。女の子のようにおっぱいがない彼の胸は、鎖骨から下、すとんと大体まっすぐなラインを描いている。肋骨が浮き出そうな体のラインは、とてもバスケをしているようには思えないのだが。
　骨ばった指とか、手を合わせるとわたしのよりも大きいてのひらだとか、筋肉質なふくらはぎだとか、硬い腕だとか。身体のあちこちは確かに男なのだ。

　わたしは同性愛者ではないと、思う。好きになったのは男の子ばかりだった。でもなんか違うのだ。されるがままというのはなんとなく嫌だった。わたしから迫ってみたりしたけど、これでもない。気付いたのは、中学時代の制服が出てきて、お遊びで着てみようとしたのがきっかけだった。
　懐かしい、と勢いで着てみたらまだちょうどいいくらいだった。それはそうだ、わたしはあれから成長していないのだ。横に大きくなるお腹以外は。
「あかねちゃんの中学はセーラーだったんですね」
「そうなの。ちょっと袖が短いかな。小学部からセーラーなの」
　ふわり、膝上のスカートが揺れる。テツヤくんの視線も、揺れた。
「テツヤくんも着てみてよ、セーラー」
「流石にサイズが合わないんじゃないでしょうか」
「じゃあ高校の着ていいから。ちょっと大きめに作ってあるの」
「…ボクからもお願いがあります」
　神妙な顔をして言いだしたお願いは、小学部の制服を着てほしいとのことだった。サイズが合わなかったら諦めてね、と言うと、テツヤくんは相変わらずあの無表情で頷いた。わたしはクローゼットの奥から探しだす。言いたくないが、わたしは相変わらず身長は平均以下だった。運が悪いとクラスで一番低い。奥にしまった小学部の制服は、どこか子供っぽいデザインだ。高校の制服をテツヤくんに渡す。お互い無言のままに着替える。懐かしい制服は、やっぱり袖が短いし、スカート丈も短く感じる。芸術家を思わせる赤いベレー帽を被れば、できあがりだ。
　できたよ、と振り返ればテツヤくんがスカーフに苦戦していた。わたしのサイズの制服は、テツヤくんにはちょっと窮屈のようだった。スカーフを結んであげると、テツヤくんは女の子になった。女子の制服から伸びる腕や脚は男のままで、ちぐはぐなテツヤくんは危うさを秘めていた。若干恥ずかしそうに目線を逸らすテツヤくんが可愛くて、そのままキスしてあげた。唇と唇をくっつけた瞬間、テツヤくんは女の子のように目を閉じる。そのまま舌をからませれば、遠慮がちに応えてくれる。わたしの制服をきゅっと握る手が、女の子みたい。そのままテツヤくんを押し倒す。
「テツヤくん、女の子みたい」
「…あかねちゃんは、小学生みたいです」
　テツヤくんは男の子で、着ている服は女の子だけどたしかに男の子で、体つきから判断しても間違って女の子だなんて思えない。でもなんとなく、わたしが女の子で、女の子の格好をしているテツヤくんに興奮してしまう。ちゅう、と首筋にキスしたら、テツヤくんはすこし身をよじった。
「テツヤくん、かわい」
　テツヤくんは男の子だから、いつでもわたしの拘束を解くことができる。でもそれをしないのは、わたしのするがままにされて内股をすり合わせるテツヤくんも興奮しているんだと思う。
「ね、ね、せっかくだから全部女の子にしよ？」
　こくん、と頷くテツヤくんはもう半分ほど蕩けていた。熱に浮かされた瞳でわたしを見るから、思わず下半身がきゅうっとなった。
　
　一目惚れで買った、パステルピンクのストライプに、控え目に白いレースをあしらったブラジャーとパンツ。どっちも真ん中に赤いサテンのリボンが小さくついていて、とても可愛いと思ったのだ。それをテツヤくんが着用するとは思わなかったけれど。
　それを付けたテツヤくんはむずむずするのか落ち着かない様子だった。スカートをめくれば、恥ずかしそうにわたしの手をはたいた。ひらりと落ちたスカートでパンツが見えなくなった。テツヤくんの手を握って、少し背伸びをする。少し顔を見せる赤い耳に口を寄せてべろりと舐めてあげた。びくりと身体を震わせるテツヤくんの鼓膜に訴えるように、「テツヤくんの可愛いところ、見たいな」と言えば、テツヤくんは恐る恐るわたしを見る。怯えるテツヤくんを安心させるように笑って見せれば、テツヤくんはスカートの裾を掴んだ。そのまま、ゆっくりとスカートをあげていく。テツヤくんの股間を覆うのは、わたしが履くはずだったパンツ。筋肉質な太ももが、可愛らしいパンツから伸びる。可愛い布が、テツヤくんの男の子の部分を押しつけて、とても窮屈そうだった。
　はしたないけど、我慢できなくて、テツヤくんをそのまま押し倒す。「あっ」低めの声で女の子のような台詞を言う。
　うわごとのようにわたしは可愛いを繰り返す。べろんとめくったセーラーの下からは、パンツとお揃いのブラジャーだ。貧相な胸の私サイズでも、テツヤくんにはがばがばだった。フロントホックをはずすと、テツヤくんの胸があらわになる。平たい胸をさすると、不安げな視線を感じた。
　大丈夫だよ、と頭を撫でれば、テツヤくんは少し安心したように頷いた。
　なんだかわたしが男の子になったみたい。
　
20120920