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きっとで教えてやれたこと


 外ではしんしんと雪が降っている。
「どうりで寒いと思った」
 私はマフラーを口が隠れるくらいに巻く。漏れる吐息が白く、よけいに寒々しい。先ほど寮に帰る前にいた、教室の冷え切った窓ガラスを通してみる世界は銀世界へと豹変していたのだ。
「あなたは寒がりすぎだと思う」
 レギュラスは私を見ずに、はっきりと告げた。
 セーターにローブ、マフラー、耐えきれない寒さに私はスカートの下にズボンまで穿いていた。スカートも十分長くしているのだが、如何せんスカートでは無防備な部分ができてしまうのだ。男子には分かるまい。どんなにダサかろうがこの格好が一番暖かいのだ。
「その格好すごくダサいよ」
「知ってる」
「その格好で外に出てないよね…恥さらしだよ」
「寮内だけだってば」
 ならいいけど、とレギュラスはページをめくる。談話室には私とレギュラスしかいない。ぱちぱちと音をたてて燃える暖炉だけが、この寒々しい談話室を温かく彩っている。レギュラスはセーターを着ているくらいで、ローブやマフラーはつけていない。私に言わせると見ているこっちが寒くなる格好である。私のためにも何か羽織ってほしいというのが本音である。寒くないのだろうか。
 レギュラスの座るソファに近寄る。私が元いた場所より暖炉が近いので少し暖かい気がする。しかし、寒いことには変わりない。ぱちぱち、ゆらゆら。レギュラスはまだ本を読んでいる。レギュラスの瞳は黒いインクで印刷された文字に吸い込まれている。私のほうには見向きもしない。目に入る文字の羅列、レギュラスの指。この寒い部屋の中で一番不自然なのはレギュラスである。まるで寒さを知らない人のようだ。レギュラスは暖かい太陽なものでつくられているのか。それなら寒くないだろう。逆に氷のようなものでてきているなら、むしろこの寒さは気持ちいのかもしれない。ふいにレギュラスが知りたくなって手を伸ばす。ページをめくるレギュラスの右手に、私の左手を重ねた。私の手よりいくらか冷たかった。私が手を重ねているので、レギュラスは手を止めた。文字に引き込まれていた瞳が、こちらを向いた。
「あなたの手は、暖かいね」
 レギュラスが口を開く。白い息が吐かれる。瞬きをしたのち、ふるりと震えた。ほうら、やっぱり寒いんじゃないか。よくみれば骨ばった指先が赤くなっている。私の体温が、どんどんレギュラスの体温と混ざり合っていく。
「寒いでしょう」
「寒かったんですね」
 外ではしんしんと雪が降っている。

20091021 title"ダボスへ"

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