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蜂蜜ラズベリーソースをかけて
召し上がれ


「久し振り、リリー!」
「あら!髪切ったのね、とてもよく似合ってるわよ!」
「ありがと!」
 夏休みも終わり、私はまたホグワーツへやってきた。新しく始まる授業にどきどきしたり、みんな私のこと覚えてるだろうか…と毎回この時期は緊張してしまう。真っ先に親友のリリーを見つけ、再会を喜んでいると、どこからかジェームズが現れた。相変わらずの寝ぐせ…くせ毛なのか?
「やあリリー。こんなところで出会えるなんてやっぱり僕らは運命なんだね!」
「知らないわ。今年こそ悪戯ばかりしないでグリフィンドールのために貢献なさい」
「やだなリリー、僕はいつも君のために働いているさ!悪戯はその、趣味だけど」
「だからその趣味が一番迷惑なのよ!」
 ぎゃーぎゃーと口げんかに発展してしまった二人を、周りはまたか、という目で見送る。相変わらず賑やかな二人だ。
「リリー、そろそろいかなきゃ」
「ああそうだわこんなくだらないことしてる場合じゃないわね、行きましょう」
 ごめんねジェームズ。口にするとリリーがまた意地を張るので、心の中で謝罪しておく。リリーもいい加減素直になればいいのになあ。ふとジェームズと目が合う。何もしゃべらないのも気まずいので、久し振り、とだけ話したが、ジェームズは私のこと覚えているのだろうか。
「久し振り、髪型が変わっててびっくりしたよ。随分と大人に見えるよ!」
 ジェームズはいつもの笑顔でそう言った。僕の髪もどうのこうのと喋っていたが、リリーが引っ張るのでどんどん遠ざかっていく。聞こえるように、ありがとうと叫ぶとジェームズは大きく手を振ってくれた。



「やあ、この席いいかな」
 大広間で出されたごちそうを食べていると、リーマスがいた。どうぞ、と言うとリーマスはありがとうと私の隣の席に着いた。
「シリウスの隣じゃ胃もたれしそうで」
「そうだねえ」
 たまったもんじゃないよとかぼちゃジュースを一口飲む。それからリーマスはごちそうの中でもとびきり甘いようなパイを皿にとって食べ始めた。
「そういえば髪、随分と切ったんだね。あんなに長かったのに」
「え?ああ、うん。さっぱりしたくて。変かな」
「そんなことないよ。短いのも似合ってる」
 リーマスは食事の手を止め、私の髪に触れた。すい、と梳くリーマスの手はリーマスをそのまま表したように優しすぎる。
「もう結えないね」
 少し寂しそうなリーマスの笑顔が、明るい大広間に映えていた。
「また髪がのびたときは、結んでね」
「僕の仕事だからね」



 忙しい一日が終わった。リリーを待っていようと、談話室のソファを陣取り図書館で借りた本を読んでいく。みんな夕食を食べに行ったのか、談話室は寂しいくらいに静まり返っていた。夕食前でお腹が空いたがリリーが来る気配はない。こっそりとローブのポケットに隠しておいたチョコレートを取り出した。
「いーもん食ってんじゃん」
 突然話しかけられたことにより、包装を剥いでいた私の手がびくりと跳ね上がり、手から落ちたチョコレートはテーブルの上に落下した。振り返るとシリウスとピーターがいた。珍しくピーターの用事に付き合っていたのか、ピーターは分厚い本を何冊か抱えてふらふらしていた。
「お前よくびびるな。ピーターそっくり」
 クックック、とさも可笑しげにシリウスは笑いを堪えていた。しかし明らかに笑い声は漏れていて隠し切れていない。ピーターがやんわりとそれを否定するのも気にせずにシリウスはテーブルの上に落ちたチョコレートを拾うと口に入れてしまった。
「あー!わたしの!」
「いいじゃねえかどうせまだ隠し持ってんだろ」
 不貞腐れる私の頭を押し付けるようにシリウスが撫でまわす。
「そ、それよりどうしたの?もうみんな大広間に行ってるみたいだけど…」
「リリー待ってるの。なんか用事あったんだって」
「ああそれで。もうすぐ来るんじゃねーの?俺は腹減った、ピーター行くぞ」
「えぇ!?ちょ、ちょっと待ってよ」
 ぐいぐいと引っ張られるピーターの手に、隠し持っていたチョコレートを一つ渡す。あげるね、と加えるとピーターは嬉しそうに笑ってお礼を言う。そんなピーターを引きずるようにシリウスが引っ張って行くのを見届けると、私はもう一度本に視線を戻した。再び静かになった部屋でぺらりぺらりとゆっくりページをめくっていく。



「ごめんなさい、大分遅くなってしまったわ!」
「ううん大丈夫だよ」
 リリーが息を切らせながら談話室へ駆け込んできた。そのまま「急いで準備するわ!」と女子寮へ駆け上がっていく。五分もしないうちにリリーは談話室へ降りてきた。
「さあ行きましょうか。もうお腹が減りすぎて我慢できないわ!」
 隣を歩くリリーから視線を感じる。どうしたんだろうとリリーのほうを向けばばっちりと目が合った。
「どうしたの、リリー」
「…あの男と同じことを言うのはなんだか悔しいのだけど、貴方髪を切って大人っぽくなったなあと思ったの」
「ふふ、ありがと」
 ふい、と目線を逸らすリリーの頬は微かに紅潮していた。何かを言いたそうに俯きがちになったリリー。あのね、ポッターがね、とぽつりぽつりと呟いている。ははあ、なるほど。しおらしく慎ましい恋する少女に変身したリリーにいつもの調子は影を潜めてしまっていた。
「御報告はお部屋で聞くとしますよ!」
 笑ってリリーの手をとると、リリーも花が咲くように笑ってくれた。「早く行かないとごちそうがなくなっちゃう」と私たちは急いで大広間に向かった。

20100906 title"氷上"

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