text | ナノ


「あの、ほんと、ありがとうございます」
「…別に」
 僕は今女の子と一緒に歩いている。彼女のネクタイを見るとまだ黒いから、新入生なのだろう。泣きながら歩いているのをたまたま見つけたのだ。緊張ばかりしていたらいつの間にかはぐれたという。
「申し訳ないです…」
 その娘はもう既に泣き始めていて、端から見ると僕が泣かせているみたいだ。困る。絵画達がひそひそと僕らを見ている。
「ほら、泣き止んでよ」
 ポケットの中にあったハンカチを彼女に差し出した。泣き止んだけど、ハンカチを前にしてキョトンとするだけで、受け取ってくれる気配はなさそうだ。まったく。僕は彼女の顔を無理矢理僕のほうへ向かせて、彼女の顔を拭いてやる。わ、柔らかい。何だろう、子供体温みたいに温かい。
「あっ、あう、あの、せんぱ、いた、いたい、れす」
「…あ、あぁ、ごめん。大丈夫?」
「はい、大丈夫、です」
 …前より悪化したようにも見える。頬を摩ってあげると擽ったそうに目を細めた。あ、病み付きになるな。この柔らかさと温かさ。僕もこの年くらいはこうだったのだろうか。
「せんぱ、いた、いたいれす、ひっはらないれくらひゃいっ!」
 少し、魔がさした。

◆◆◆

 とりあえず分かれ道の階段のところまで来た。ここからは彼女がどの寮に入ったのか分からないから、彼女に聞いてみることにした。こんなころころと表情を変える子はスリザリンにはいないだろう。英知ってわけでもなさそうだし、グリフィンドールかハッフルパフってところだろう。
「ね、君の寮はどこ?ここから分かれ道なんだ」
「、緑のところ…」
 まさか、彼女は寮の名前も言えないのか。今言った色はきっとシンボルカラーなのだろうか。つくづくこの子らしい。……………………ん?
「緑?」
「はい!緑の、蛇がいる寮です!」
 ……………………。
 僕はまさかと思いつつ自身のネクタイを出して、彼女に示した。
「この色?」
 まさか、
「はい!緑の寮です!」
 嘘だ、組分け帽子は何をやっているんだ!こんなすぐに泣く騙されやすそうな子がスリザリンだなんて。目の前がくらくらしてきたぞ。
「あ、もしかして先輩もスリザリーですか!」
「…………」
 言えてないぞ。
「そうだよ………とりあえず虐められたら僕に言いなよ。絶対、だよ?」
「?はい。あっ、先輩、スリザリーはどの階段でしょうか?」
 きゅう、と子供体温が僕の手に伝わる。彼女は道が分かるわけでもないのに、僕の手をひき、ずかずか進んでいく。違う、そっちはグリフィンドールだよ。僕はくすりと笑いをもらして彼女を正しいスリザリン寮へ連れていくべく、スリザリンは地下だと伝えた。彼女の顔は少し暗くなったが、「先輩がいるなら我慢します、」と落胆した。有難う、と笑うと、彼女も笑った。

ひ 
 な
た 
 の
向 
 日
葵 

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -