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おやつじかん


「先輩!甘いものはお好きですか!?」
「あまり」
「嫌いではないと!それはよかったです!」
「好きではない。勝手に解釈するのはやめてくれる?」
 今日も来た。
都合のいい方向に持っていく彼女の思考回路は一生理解できないだろう。この間も同じ問答をしたのだから。
 談話室のソファに深く腰を下ろして、眼鏡をかけなおす。読んでいた本のページを一ページめくる。そんな僕の一連の動作の間にもあの子は僕のほうへと近づいてバスケットの中身を広げた。クッキー、アップルパイ、チョコチップスコーン。甘ったるい匂いが僕の鼻腔を刺激する。
「まあ今日は大丈夫ですよ!あまり甘くないお菓子を用意しました」
 不本意ながら、この理解不能な生き物に最近絆されているのだ。最初は係わるまいと思ったのに気付けばひょっこり顔を出す。神出鬼没である。
 ひょんなことから出会ってしまい、懐かれてしまった僕、レギュラス・ブラック。最初は手のかかる後輩だと思っていた。今もその印象は変わらない。気づけば迷子になっているし、それも僕が助ける羽目になっているし、気づけば食事を一緒にとっている。気づけばアフタヌーンティーに誘われている。不思議な生き物に懐かれたものだ。
「ふうん」
 どう見ても甘ったるいお菓子にしか見えないけど。心の中で文句を言ってみる。しかし彼女は本当に楽しそうにお菓子を並べていく。
「紅茶を用意してきますね」
 彼女はにっこりと微笑むとドアの向こうへと消えていった。
 テーブルの上のお菓子たちを見てみる。スリザリンの寮には似つかわしくない風景である。うす暗く肌寒い空間に、お菓子だけが暖かそうに佇んでいる。ほとんどは彼女の胃袋にいくのだろう。
 視線を本に戻す。無機質な文字が薬草学について語っている。文字を目で追い、頭の中で咀嚼してみる。またひとつ、僕の頭の中の引き出しに薬草についてしまわれた。僕はまた文字を追う行為に没頭した。
 カチャ。
 テーブルの上にカップが置かれた。どうも彼女が戻ってきたみたいだった。彼女に眼をやると、にこりと笑って見せた。もうひとつカップとソーサーを置くと、手際良く紅茶を注ぐ。紅茶自身の匂いがお菓子の匂いと混ざり合っている。
 いつもお転婆で、廊下を走っては怒られているいつもの姿とは似ても似つかない姿だ。いつもこうして大人しく振舞っていれば怒られることもないだろうに。
「先輩、どうぞ」
「…ありがとう」
 ぱたん、と本を閉じた。眼鏡をかけていたことを忘れていたので、紅茶からたつ湯気でレンズが曇る。その様子を見られたのか、彼女から控え目な笑い声が聞こえた。…恥ずかしい。
 彼女の紅茶は、美味しい。冷たい空間の中でも暖かくなる。
「美味しいね」
「愛がこもってますから」
 もしかしたら、僕が彼女に懐いたのかもしれない。

20100120
フリリク/なーちゃんへ!

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