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羊が1匹

「そんなの無理だよレギュラス。眠くないしむしろ起きちゃう」
「はいはいもう黙って目を閉じなさい。仕方ないから僕が数えてあげます」

羊が2匹

 ふたりでくっついて寝るのには少し暑い気温だった。けれどそうではないと仮定してみれば適度な温度にも感じられた。薄暗い部屋で、ぼんやりと部屋の輪郭が分かる。はっきりとは見えない。外の暗さと部屋の暗さが混じり合って、何もかもが曖昧な夜だった。

羊が3匹

 今日は、とてもいい日だった。課題も褒められ、夕飯も好きなメニューだった。これ以上素晴らしい日はないと感じたくらいだ。なのに、なぜ。そうだ、あのくるくる天パがいけないんだ。わざわざ耳元で怖い話なんかするから。それから気分も大分落ち込んでしまって、廊下を歩くのすら怖くなった。天パのくせに、とても怖い話をするのだ。語りも上手いから余計に恐怖が増す。くそ、何の怨みがあったんだよ天パめ。

羊が4匹

 怖い話を聞いて眠れなくなった彼女は談話室にいた。最初同室の子に相談したところ、起きてずっと付き合ってあげると言われてずっと話していたそうだが、いつの間にかその子は寝てしまったらしい。というか、談話室にいるのは怖くないのか。たまたま目が覚めてしまった僕は談話室にきたのだが、彼女はずっと談話室にいるつもりだったのだろうか。談話室のほうが怖いと僕はぼんやり考えた。

羊が5匹

 なんとか無理を言ってレギュラスと一緒に寝ることになった。レギュラスの同室の人は留守で、こんなラッキーなことはないと思えた。一緒になら怖くないと思ったのだが怖いものは怖い。電気を消されるとまた天パのおどろおどろしい声が蘇るようだった。怖くなって目を閉じても何だか出てきそうでやっぱり瞼を開けた。どうしようもなくなって、レギュラスのパジャマを掴む。近くに誰かいるという安心感が、生まれた。

羊が6匹

「どうしたんですか」
「な、んか、こわくなった」
「…そういう類いの話は全部嘘ですよ」
「でも、すごい怖かったの。天パ、語り部上手いから」
「………」

羊が7匹

 僕らは向かいあって寝ることにした。薄暗い部屋の中で彼女が「近くに人がいる」という安心感をすぐ得られるように。僕もまあ男だから、結構緊張、する。彼女とは別の意味で心臓が破裂しそうだ。薄暗いものだから、彼女が至近距離にいるということがすぐ確認できた。もしかして、蒸し暑いのは僕だけなのかもしれない。

羊が8匹

 安心するのと怖くなくなるのは結構別物だった。というか、あまり眠くないのかもしれない。こんな近くに男の子がいて、ぐーすか寝れるものならいいが、こんなときだけ女の子になれるわたしは緊張やら羞恥やらで目が冴えてしまった。あああ、わたしは何という恥ずかしいことを頼んだんだ…!ちょっと前のわたしの馬鹿、そしてグッジョブ。心臓の音がやけにうるさく感じる。うわ、寝れないし!

羊が9匹

 なんか寝れない、と呟いた彼女に僕は同意した。彼女がどんな理由で寝れないと感じているのかはわからないけれど。しかし寝てしまわないと、明日起きれなくなってしまう。僕は何とか考えて、苦肉の策を提案した。羊を数えるあれだ。子供っぽいしましてや寝れるという確信もないのだが、もうこれしか思い浮かばない。何でもいいから早く寝てしまわないと、心臓爆発で死にそうだ。

羊が10匹

 なんやかんやで冒頭に戻る。ゆっくりとレギュラスの声が羊を数えていく。普段大人っぽいレギュラスが羊を数えているのは本当に新鮮だった。羊が1匹、羊が2匹、何だかレギュラスが子守唄を歌っているようだった。あれだけ騒がしかった心臓も、レギュラスが羊を数える度に段々と落ち着いてきた。うとうとと睡魔がやってきた。レギュラスの声もだんだんとぎれとぎれになってきているが、わたしの意識が眠ってきているのか、レギュラスが眠ってしまいそうになっているのか、どちらかなんてもう判別できなかった。眠い眠い、

羊がたくさん、

 いい感じにうとうとしてきた。それは彼女にもいえることで、もう目を閉じて寝息をたてていた。僕の爆発寸前だった心臓はとても穏やかになっていて、脳も早く寝てしまえと命令している。僕はその命令に甘えようと思う。羊たち、ありがとう。

そしておやすみ

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