「鳴介さん」 「ん?どうした?」 「…学校、頑張ってね」 「ああ!ありがとう!」 ニカッと爽やかな笑みを浮かべる鳴介さんの頬に手を当てる。意味を理解したのか、彼は少し顔を赤らめて、ゆっくり目を閉じた。 きれいだなあ。こんなきれいな人が、今まで僕の手中にあったことが間違いだなんて、小学生でも分かりそうなものだよね。いや、分かってたんだよ。分かってて、でも嫌だから気づかないふりをしてきた。けれど、それも今日で終わりだ。今日で僕達はサヨナラしなくちゃ、ね。ねえ鳴介さん。あーあ、僕がゆきめさんだったらなあ、鳴介さんの隣は、ゆきめさん以外の誰でもダメだなんて、ひどい話だなあ。僕の方が先に鳴介さんを見つけて、鳴介さんを好きになって、鳴介さんに好きになってもらったのになあ。なあ何でだよ可笑しいだろお前が悪いのにお前が鳴介さんを傷つけることになるのにお前が自我を取り戻さなきゃ鳴介さんは大怪我をして教師を続けられなくなるのにそんな怪我をさせるような奴に僕は鳴介さん譲らなければならないの、あんな奴に、人間でもないくせに、あんな、あんな奴に。あーあ、死ねばいいのになあ。そしたら僕は、鳴介さんが教師を続けられなくなってしまう夢なんか見ずに、馬鹿みたいに笑って、鳴介さんの側に、ずっと、 「……___…?」 いつまで経ってもキスをしてこない僕に痺れを切らしたのか、鳴介さんが僕を見た。鳴介さんのきれいな目に、僕が映ってる。あはは、それすらいけないことのようで、苦しいなあ。 「……鳴介さん」 「なん、だ…?」 じりじりと焼き付くような空気。苦しい。苦しいよ鳴介さん。僕、なにか悪いことでもしたのかな、それとも妖怪に取り付かれてるのかも。ああ、そうだ、いい事を思いついたよ。鳴介さんのその鬼の手で、僕を、 「……時間、大丈夫?」 「へ…?、っ!遅刻だ!!行ってきます!」 「あはは、気をつけてね。行ってらっしゃーい」 ぷらぷらと手を振って見送る。 さてと、僕は片付けしないとなー。 プルルルルルッ プルルルルルッ ピッ 「はい、___です」 『おはようございます!○○引越センターです!只今から伺いに行きますが、9時からで宜しいでしょうか?』 「はい、大丈夫です。ありがとうございます」 『いえ!それでは失礼します!』 プツッ あはは、鳴介さん帰ってきたらビックリするだろうなあ。その顔が見れないのは残念だけれど。あはは、何だこれ、目から涙が出て止まらない。馬鹿馬鹿しいな、こうなるって知ってて付き合ったくせに。もしも、なんて、夢見ちゃってさあ。過去のお前のせいで、今の僕は死にそうなくらい辛いよ。さあ、タノシイタノシイ引越しだー。 to list |