ボール





「ノヤ!!」

「っ!!?」



聞いたことのない声音で名前を叫ばれて、気づいたら視界は真っ白だった。



「はあっ、……ビビらせないでください…」



心底疲れた、とでも言いたげな声は、___のものだ。ゆっくり離れた腕は細くて、でも、意外と力強いということをたった今思い知らされた。



「わりーわりー、ボール返してくれー」



声の方を見ると、サッカー部の男みたいだ。おそらく、3年。そいつの視線の先にある、俺の足元に転がってるボールを見て、ようやく合点がいった。

ボールが飛んできて、俺に当たりそうで、___が抱きしめてくれて、ボールは壁にぶつかって、今足元にあるってことか。

サッカーボールが硬いことは知ってる。龍が顔面リフティングで鼻血を出したことがあるからだ。危なかった。頭に当たっていたらきっとーーーー



「今度から、ゴムボール使ったらどうですか」



ビュッ、と音がして、3年生の顔の真横を通って、何かが遠くへ飛んでった。地面を見る。何もない。つまりさっきのはサッカーボールってことだ。



「あ、部活遅れる」



足を下ろしながら、何でもないように呟いて、ぽてぽてと歩き出す___。呆然と立ち尽くしてる3年生を尻目に、俺は___を追い掛けて、後ろから飛びついた。



「うわっ、何すんですか」

「サンキューな___!!」

「そう思うなら飛びつかないでくださいよ」



そう言いながらも引き剥がそうとはしない___に、思わず笑ってしまう。俺の親友はとんでもなくカッコイイ男だ!







後日、大地さん達が話してたんだが、サッカー部の誰かが退部したらしい。


 
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