ヒロ、ゼロ、 そうお互いを呼び合う二人を初めて見て思ったことは 「珍しい」 だった。 高校生にもなると、男子の殆どは友達は名字で呼び合うと思う。下の名前だとなんかキモいし、アダ名をふざけてつけることはあっても、本当の意味の愛称なんて小っ恥ずかしいものは漫画の中の存在だった。 だから、つい、何だか特別な二人を目で追ってしまっていたんだと思う。 ▽▽▽ 「なあ、ゼロのこと好きか?」 「は?」 小生意気にもギターをやってる弟にパシられて、楽器屋で弦やらクロスやらを買ってる時に二人にバッタリ出会してから、何故か妙に話しかけられることが多くなり、気づけば三人セット扱いされるようになってきた秋頃。先生に呼び出された降谷を、諸伏と二人で待ってる時だった。食べ物の好き嫌いを聞くようなトーンで諸伏が何か、今、すごいことを、 「………なんて??」 「だーから、ゼロのこと好きなのかって」 ずいっと諸伏の整った顔が無遠慮に近づけられ、思わず背を仰け反った。近い近い。お前と降谷ならいざ知らず、この距離は普通のDK友達のそれじゃないんだぞ。 というか、なんでそんな話になったんだ? さっきまでセロリが嫌いだとか、本当に食べ物の好き嫌いの話してた筈なんだけど…。 っていうか目がマジ。フレンドシップ的な意味じゃないことは明白だ。なんでそんな歴戦のスナイパーみたいな目してんの。おれが降谷を好きかどうか知りたいってだけでそんな目する必要なくねーーーーん?あ?これもしかして???そういう??? 「二人めっちゃ仲良いなとは思ってたけど…」 「は?」 「おれもしかしなくても邪魔じゃん…? ごめん。知らなかったとしてもこれはないわ…」 「おい、なんか話が」 「大丈夫!!おれそういうの偏見ないし、応援してるから!」 がしっと諸伏の両肩を掴んで、おふざけなしの真剣な顔で言ってみせる。こういうデリケートな話を茶化すのは嫌いだ。気恥ずかしさを誤魔化すために茶化すことで誰かを傷つけるかもしれない。あの諸伏の目でどれだけ本気で降谷のことが好きか痛いほど分かった。だからおれも本気で応援を 「ちゅっ」 「……は?」 「あ、悪い。___の真剣な顔がエロかったからつい」 さらっと謝りながら全体的におれに責任転嫁してきている諸伏の顔は目と鼻の先だ。 おれは こんらん している! こうかは ばつぐんだ! 待て待て待て!!どういうことだ。整理しよう。諸伏は降谷が好きで、おれにキスしてきて?なんだこいつキス魔??節操なしか??猫目を細めてくつくつと笑ってるお前の方がエロくない??なんなの??っていうかおれファーストキスなんですけど??? 「つい、で抜け駆けか?」 思わず誰だよって言いそうになった。今まで聞いたことの無い地を這う低音ボイスの主は間違いなく特徴的な声質の降谷なのに。一瞬本気で分からなかったし、なんなら声から怒りが溢れてて怖すぎて振り向けない。 降谷って怒るんだ…。 おれの不注意で事故って足の骨折ったときにコラッって怒られたり、三人で遊んでる間にメッとかふざけた叱り方はされたことあるけど、こんな絶対零度の不機嫌MAXな声は初めて聞いた。背筋が緊張で強ばってなんか背中ごと痛いレベル。おれがグッピーならもう3回は死んでるぞ。 そんな中、さすが幼馴染といえばいいのか、諸伏は普段通り、人すきのするあっけらかんとした笑みを返す。 「人聞き悪いなあ。いつまでもこのままってのは無理だろ? だから___がゼロにちょっとでも気があるようなら引こうと思ってたんだよ。でもそうでもないみたいだし、それにやっぱり俺、」 そっと諸伏の右手が、未だに諸伏の肩を掴んでいたおれの左手をとって恋人繋ぎみたいに指を絡ませてくる。さっきのキスは一瞬過ぎて感触が曖昧だったのに対して、いやにゆっくり手の甲の筋を熱い指で撫でられて、強ばっていた背筋に別のぞわぞわしたものを感じてしまう。 こんなの、おれは知らない。 「___のこと好きだし?」 わざとらしい上目遣いによって、猫目の大きな青色の瞳の中に灰色の虹彩がキラキラと輝いている。月並みだけど吸い込まれそうだ、なんて思ってると、ぐいっと顔を両手で向きを変えさせられた。誰に、なんて愚問だ。この場にはあと降谷しかいない。 「いででででっ!」 「僕の方が___のこと好きだ…!」 「は? なに言っ、 っあ゛っ!?…… んむっ…はあっ、ちゅっ、ん゛ん…ふ…っ!」 これキスじゃない!食いつかれてる!おれの顔に添えてた右手の親指を挟み込んで無理やり口を閉じさせないようにするとかプロの犯行だろこれ! そのまま降谷の熱くてぬるぬるした舌が入り込んで、歯列や上顎を舐められたり舌を絡ませられたり好き勝手される。 …んだけど、これが首の後ろがじわじわ熱くなってきて、なんか、こう、気持ちいい、かもしれない。 タイミングよく離される口によって苦しくない程度に呼吸をさせてもらいながら、もっと気持ち良くして欲しくて、思わず顔を寄せてしまう。さすが校内一のモテ男。童貞のおれでは到底及ばないテクニックに正直もうまともに思考が働かない。 目は閉じてるから降谷の顔は分からないけど、降谷の唾液がすごくぬるぬるしてる。興奮してんのかな。降谷の顔はいわゆるハニーフェイスでその名の通り甘ったるさがある。諸伏とは違うベクトルでこれまた大層整ってるから、興奮してる顔見たいかもしれない。ああでもなんか目が開けられない。このまま、食べられてもいいかもしれない、なんて。 カチャカチャ 「!!?っうわわわ!ちょっ!おれのベルト!まじで離、っチャック下ろすな!!」 聞き慣れた金属音にとろけた思考が急速に現実に引き戻された。 慌てて降谷を引き離しながら叫んだが、おれの制止の声なんて諸伏には関係ない。手を伸ばす頃にはなぜか諸伏の顔がおれの股間に埋められているという…いやなにこれ…ほんと…。こいつ首の力強すぎ…ビクともしない……。 「む、むり…マジで……」 「ヒロ、___が嫌がってる」 「こんなガチガチにしといてそりゃないだろ?」 諸伏にちゅう、とリップ音を立てながら下着の上から口付けられてーーー吸いつかれたのかもしれないけど童貞のおれではよく分からなかったーーー思わずビクッと腰が持ち上がり、意図せず諸伏の顔に擦りつけてしまう形になってしまった。あああやばいってこれ!! 「んう、ははっ、なに、舐めろって?」 「んなわけないだろ離せ…!」 「それは無理な相談だな」 べろり、 諸伏がおれのへそを舐めあげる。ぶわりと鳥肌が立つのを褐色の手のひらが宥めるように撫でてくる。そしてそのままその細長いマネキンみたいな指がおれのパンツにかかってーーーあれお前さっきまで止めてくれてたよな?えっ?なにこれ?テノヒラクルー? 「ゼロとさ、前に話したことあるんだよなあ。体で手篭めにするのもありかもって♥」 「___が嫌がるなら止めようと思ってたが……乗り気じゃないか、すけべ♥」 諸伏がついにおれのを咥えて、顔を前後に動かし始める。降谷が横から抱きついてきて、諸伏が咥えきれない部分を握ってゆるゆると扱き始める。 ふたりとも、なんか、顔がいつもとちがう。もっと諸伏は少年らしさを感じさせる悪ガキっぽい顔のはずだ。降谷は潔癖そうな優等生面だろ。なのに、なんで今はこんなにえっちなお姉さんみたいな顔してんだよ。こんな、こんなのさあ。 「ん、…はあっ、くそ、勃つなってほうが、 っあ、むりだろ、これ…っ!」 「んぶ、ぢゅっ、 っはは、勃たせた責任とって出させてやるよ♥」 「ヒロの次は僕だからな♥」 ああもうくそ、お前らじゃなきゃ顔と金玉蹴り上げて帰ってるのに。お綺麗な顔に産んでくれたご両親に感謝しろよ!なんてお門違いなことを考えながら快感を享受する。下校チャイムが鳴るまで二人に延々搾取されるなんて、おれは知らない。 to list |