ゼロティーネタ。shortと同じ主人公のつもり。 ころころころころ。 白い毛玉が転がり回っている。 ラグは毛のヘタリが気になってしまうから嫌だと言った彼のために、ここは床暖房付きのフローリングなのだけれど、つるつるとした床は毛玉が転がるにはもってこいだったみたいだ。 毛玉は部屋中を縦横無尽に転がってはふんふんと何やら熱心に鼻を擦り付けては別の場所へ転がってゆく。何がそんなに楽しいのだろうか。へんなの。 ぼんやりソファに座ってひたすらそれを眺めていると、むに、と横から頬を抓られた。微妙に痛い…。 「毛玉じゃなくてハロだ。ちゃんと名前を呼ぶこと」 「ごめんなひゃい」 うっかり声に出てたみたいだ、反省。 ハロ、ハロかあ…。 降谷くんが僕に教えるために「ハロ」と口にしたのを、自分が呼ばれたと思ったのか猛ダッシュで飛び込んできたそれは、白い犬だ。降谷くんが飼っている犬で、ここ数日間は仕事の後片付けと僕の家に引っ越すので忙しくてペットホテルに預けていたらしい。 降谷くんは顔をへにゃっと緩ませて、その犬を抱き上げた。くるん、とまではいかないけれどやや巻いている尻尾に、まろ眉みたいな模様、ピンと立っている三角形の耳。愛嬌たっぷりのその顔を見るとなんだか…、既視感…が………。 「やっぱり___に似てるなあ」 「ワンッ」 「………」 似てないよ!って言いたいのに、自分でもちょっと似てると思っちゃったせいで何も言えない…。 遊んでもらってるわけでもご飯を貰えたわけでもなく、ただ降谷くんが名前を呼んだだけでぶんぶんちぎれんばかりに尻尾を振って喜んでいる姿に既視感しかない…。 分かる、分かるよその気持ち、だけど降谷くんの膝の上で丸くなるの止めて欲しいな…そこは僕の特等席なのに…いや、毛玉相手に文句言うつもりはないけど、ないけどさあ…。このままずーっと一緒に暮らすんでしょ?降谷くんがあんまりに優しげな顔をしているものだから、いつか思わず「僕とハロどっちが大事なの!?」なんてこの口が言っちゃわないか不安になってきた…。 「…似ているといえば、俺にも似てるんだ」 「えっ、降谷くんに?」 「ああ。好きな人に構って欲しくて、その為には怪我だって何だってするところが…」 遠くを懐かしむような、思い出に浸るようなその表情に、僕は少し寂しくなった。僕は降谷くんが構って欲しくなる前に構い倒してしまうので、そんな姿を見たことはない。 降谷くんにそんなに必死になってもらえたどこかの誰かが羨ましいなあ。…ほんの少しだけ、だけど。だって彼の隣に今いるのは自分で、これ以上の贅沢はバチが当たりそうで怖いくらいだ。 それにしても、そうか。ハロは降谷くんに似てるのか。そんなことを言うくらいだから、ハロはきっと降谷くんに構って欲しくて怪我をこさえてきたんだろうな。意外とやんちゃなんだなあ…。 降谷くんの膝でひっくり返って腹を見せているその姿にはもう傷一つないようだから完治してるようで、なぜかホッとしてしまった。 「そっかあ…降谷くんに似てるなら、きっと僕も好きになれるよ、ハロのこと」 「ワフッ!」 「うわあっ!!?」 突如僕の膝に飛び乗ってきた毛玉に驚く。 も、もしかして僕が「ハロ」って言ったのを聞いて呼ばれたと思ったのだろうか。 全力で、 どうしたの?楽しいことあるの?みたいな顔してるこの毛玉人懐っこ過ぎない?降谷くんが拾うまで野良犬だったって聞いたけどよくこれで生き抜けてきたね?? とりあえず頭に手を乗せてみる。そのまま後ろへ撫で付けるとふかふかでわさわさで、不思議な手触りだ。犬ってこんな手触りなんだっけ、生き物に触るの久々だから上手い感想が出てこない…。 あったかくてぐにぐにしてる…ってこれじゃあんまりか。というか僕は犬より猫派なんだけど降谷くんに似てるとこがあるってだけでハロが急に可愛く見てきた…。 無心でハロを撫でていると、不意に頭をひと撫でされた。僕の頭を撫でる人なんて、この部屋には一人しかいない。 「え、降谷くん?」 「ん?」 「何で僕撫でられてるの…?」 話してる間もずっと撫で続けられる…。 いや、嬉しいけど、嬉しいんだけど!何か頭撫でられるのって恥ずかしいね!?ちっちゃい頃とかは撫でられたことあるけど、もうウン十年振りで、撫でられてる間ってどうすればいいんですか教えてエロイ人…! 「___は何でハロを撫でてるんだ?」 「えっ…えー、なんとなく??」 「じゃあ俺もなんとなくだな」 そういえば撫でたことなかったな…なんて真顔で言い出す降谷くんに、僕はもう何もできない。悶えながら行き場のない思いを吐き出すためにハロを撫でくり回す。 ……こんな風に降谷くんに触れてもらえるのなら、犬を飼うのも悪くない…ね?ハロ。 (翌日、会社から帰ってきたら床がクッションフロア(犬の足に負担がかからないらしい)なるものに変わってた) to list |