たまたま本部に用事があって、時間が空いていたから平日の昼間にやってきた。学生は防衛任務を任されている奴ら以外は当然学校だから、いつもと違って閑散としている。人気の無い廊下を軽い足取りでサクサク進んでいると、角を曲がろうとした瞬間に人影が見えた。ぶつかる、と思いはしても急に止まることなんて出来ず、そのままぶつかってしまう。 ぼすっ! 硬い感触。ああ、男相手だ、しかも同じくらいの体格。良かった。女の子や小柄な人が相手だったら怪我させてただろうから。頭で冷静にそんなことを考えながら、ほぼ反射的に謝りながら相手を見る。田んぼの中のタニシみたいな目がおれを見ていた。 「、げ。」 「そりゃこっちのセリフだ。何かと思ったら玉狛のぼんち揚野郎かよ」 どうりでぼんち揚くせェ。 そう吐き捨てた男に口角が引き攣る。こいつ相変わらずいい性格してるな。にっこり作り笑顔を貼り付けると、男の顔がよりいっそう歪んだ。 「まだぼんち揚開けてないけど。___は鼻も性格と同じくひん曲がってんの?」 「ああ?お前に性格どうこう言われかねーな。趣味暗躍かっこわらいかっことじ」 「趣味麻雀パチスロのろくでなしよりははるかに役に立つ趣味だろ。万年金欠くん」 「俺の金を俺がどうしようが勝手だ!」 「おれの助言無視してまでお金をスるとか変態じゃない?」 「この野郎、っづ!?」 「い゛っ!!」 睨み合ってお互いに罵っていると、突然頭を押さえ付けられて、___の額とおれの額がぶつけられた。がつん!と凄い衝撃を受けて、おれも___も蹲る。いったい…!久々にこんな激痛を味わった。滲む涙により不明瞭になった視界で原因を見上げると、赤い瞳が呆れていた。 「往来で何を馬鹿騒ぎしているんだ」 「風間さん、おれは悪くないよ。___が突っかかってきたんだ」 「違う。迅がわざと俺にぶつかって喧嘩売ってきたからだ」 「わざとじゃないし、謝っただろ」 「俺の顔見て『げ』っつったことは忘れてんのか、都合の良い脳みそしてんな」 「誰でも___の顔見りゃ言うでしょ」 「…お前達、余程俺の手を煩わせたいようだな」 罪を擦り付けあっていると、意外とキレやすい風間さんが静かにプッツンしていた。気づけば私服から青の隊服に変わっていたから、トリガーを起動して換装したようだ。ヤバイ。トリオン体でさっきのをやられたらおれの額と___の額がめり込んでくっついてしまう。同じ想像をしたのか、___の顔色も信じられないくらい悪くなっていた。 「っくそ、迅逃げるぞ!」 トリオン体の風間さんを撒くために、換装した___にぐいっと手を引っ張られて、そのまま縺れそうな足をなんとか動かして走る。 「___次右!左は忍田さん来るから!」 「おう、つーかお前もトリオン体になれ!」 「いやそれが、昨日風刃城戸さんにあげてノーマルトリガーまだ貰ってないんだよね」 「アホか!」 「うわ!?ちょっと、___!」 「うっせぇ喚くな!次どっちだ!」 ひょい、とおれを俵抱きしてそのまま走る___。うわ、めっちゃ焦ってる顔だ。もう風間さんは追ってきてないけど、逃走劇とその焦ってる___の顔が面白くて。 「真っ直ぐ、早く!追いつかれるぞ!」 「そりゃ勘弁!」 ーーーーーーーーーー 人当たりの良い飄々とした迅さんと楽しく口喧嘩したい欲が出ました。 主人公は迅と同級。小学校からの腐れ縁。顔を合わせればいがみ合う仲だけど、「喧嘩するほど仲が良い」の体現版。本人達も内心口喧嘩を楽しみにしてるので、相手が元気ないとつまらなさそうな顔して大人しくなる。 to list |