ぺきりと折ったように腰を直角に曲げている男は、己に背を向けたままの男にもう一度、謝罪した。 「ーーーーすみません、キャプテン」 「……勝手にしろ。もうおれは、テメェのキャプテンでも何でもねェんだからな」 温度を感じさせない声に酷く安心する。良かった。キャプテン…いや、トラファルガー・ローがおれごときの下船で心を痛めるはずがないということは知っていた。けれどほら、この人は変なところ義理堅くて優しくて甘い人だから。だから、良かったとおれはほっと息を吐き出した。まあ引き止めて欲しくないといったら少し嘘にはなるが、引き止められたらアッサリ下船を止めてしまうだろうからやっぱりこれで良かったのだ。 パラリ、 キャプテンが本を捲る。その節くれだった指にですら、この心臓はキリキリと締め付けられるのだ。これでどうして貴方のお側に居られようか。 「トラファルガー・ロー」 もう二度と呼ぶことのないだろう愛しい人の名前。おれは自身の想いを捨てて貴方の力になることより、逃げることを選んだ。すみません。貴方が野望を遂げるその日まで、死んだってついていくと言ったのはおれだったのに。 「ご武運を、お祈りします」 頭を深く下げたまま祈るおれは、彼の指が震えていることに気づけない。 to list |