WT鋼 そのときをまっている




村上 鋼には幼馴染みがいる。努力家で生真面目で、正義感が強い少年だ。そういえば玉狛第二の隊長と少し似ているかもしれない。村上 鋼はそんな幼馴染みが大好きである。




「鋼、また泣いてるのか」

「___…」


お馴染みの格好で折りたたんだ両足に乗せていた顔を上げると、頬にそっとハンカチが当てられる。幼馴染みの___はいつもこうやって泣いてるオレを見つけて慰めてくれる。よしよしと頭を撫でてくれる優しい手に擦り寄って、全力で慰めてもらう。大好きな___に優しくしてもらうと、急速に胸の傷が塞がっていく気がした。


「どうしたんだ?何が悲しい?」

「……、何でも、ない」


ぶわりと、せっかく止まりそうだった涙がまた溢れてきた。何でもない訳がなかった。それでも___は困った顔をするだけで、オレを問い詰めたりしない。本当に優しくて、またいっそう目の奥が熱くなる。

村上 鋼は強化睡眠記憶というサイドエフェクトを持っている。一眠りすればまるでスポンジのように、教えられれば教えられた分だけ完全に吸収する。

幼馴染みの人、可哀想だな。

誰かの声が聞こえた。悪意のある声なら良かった。それならいくらでも反論のしようはあった。けれどその声は本気で、ただ純粋に憐れむ声だった。

違う、___は可哀想なんかじゃない。一体どの口が言える。___は善良な人間だ。自分が教えられることは幼馴染みである村上 鋼に全て教えた。完璧にマスターする度に___はとても素直に喜んで、たくさんたくさん褒めて、そしてもっと教えてあげたいと努力した。その努力をオレは一晩で奪ってしまうのに。
___は自分のことを可哀想だと思っていない。もちろんオレだって微塵もそう思っていない。だって___にはオレが学習出来ない強さがある。

けれど、傍から見れば自分といるだけで___は可哀想に、不幸せに見えるらしい。他人からの評価は、どうしようもない事実だ。オレと___さえ良ければそれで良いだなんて、そんな強さはオレにはない。

___に向けて両手を広げる。


「抱っこか?鋼は甘えただなあ」

「___にだけだ」


ぎゅうぎゅうに抱き締めると苦しいよ、と___が笑った。聞こえないフリをしてしがみつく。彼の個人ポイントは日毎に僅かながら増えている。きっとまたオーバーワーク気味に個人ランク戦でもしていたんだろう。

誰か言ってくれないだろうか。この幼馴染みは、オレといるから幸せなんだって。

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