しあわせにしたいのです続き ______という男は運命の人を探している。 整った甘いマスク。童話の王子様のようなその顔の割に人懐っこく、ノリがいい。気取らないその態度に僻む男も絆される。背丈は流石に太刀川には劣るが標準よりも高く、勉強もスポーツも要領よくこなす万能タイプとくれば女が放っておく訳もない。 (……また違う女連れてる) 取っ替え引っ替えだ。___は少しでも気になる女が見つかれば近づいて、そして一、二週間もすれば別の女に興味を移している。しかし酷い男、というよりは運命の人を探しているのではというメルヘンな憶測がこの大学では真実とされている。 これもひとえに、___の仲良くなった女にキスのひとつもしない誠実な態度のせいだろう。その憶測のせいで我こそがプリンセスと言わんばかりに猛烈なアタックをされているので、太刀川は羨めばいいのか同情すればいいのか分からない。 ただひとつ確かなのは。 可愛いだけで___の運命の人になれる可能性があるなんて羨ましい、と太刀川が思っているということだ。 「お前、よく飽きもせずに女アサリできるな」 八つ当たりだった。数分前に我が物顔で___にベタベタ触る女を見てから太刀川は腸が煮えくり返っている。彼女でもないくせに、と心中で吐き捨てても苛立ちは治まらなかった。当たり前だ。じゃあお前は何なんだと詰められれば、太刀川は黙るしかない。太刀川は___の、ただの友人だ。 「女漁りって…、酷い言い掛かりだな」 苦笑する___は何も悪くない。悪くはないが、太刀川の怒りに確かに油を注いだ。 「ヒドイのはお前だろ。本当に運命の人がいるとでも思ってんのか?」 自分でも底冷えするような声だと、どこか冷静なアタマの奥でぼんやり思う。___はどこか諦めを浮かべた目で太刀川を見る。その目の色が何を写しているのかが、太刀川には分からない。それがまた、苦しい。 「……もし運命の人ってやつが男だったらどうすんだよ」 「は、…」 考えたことも、なかった。 静かな呟きが太刀川に突き刺さる。考えたこともなかったのかよ。俺は、お前の運命の人になりたくてしょうがないのに、欠片だって可能性はないのか。ぎゅ、と喉を絞められたようで、太刀川は喘ぐように声を出した。 「俺だったら、どうする」 ああ、俺ってほんとにバカだな。苦しげだった太刀川の顔に、自嘲の笑みが浮かぶ。きっと、嫌がれる。きっと___に嫌がられたら俺はすごく傷つく。そんなことは分かりきっていたが、訊かなければ気が済まなかった。……というのにいつまで経っても___から返事が返ってこない。いや、多分俺の体感的に、だから実際はそんなに時間たってねぇんだろうけど、それにしても。気まずさから逸らしていた視線を___に向ける。 え、おま、顔赤いぞ。 「っ、な、に、バカなこと言ってんだ。それより明後日提出のレポート出来てるんだろうな?」 震えた声。泳いでいる目。赤く染まった目元。これだけ揃えば答えは簡単だった。 「___は、俺のことが好きなのか」 ___から絞り出された声は、肯定こそしなかったが否定もしなかった。そんなの、答えを言っているようなものだ。太刀川は急に目の前の男が愛おしくなって、講義も何もかも放り出して___の手を取って走り出す。 ___の運命の人はきっと俺だ。 ーーーーーーーー 完全に勘違いすれ違いハッピーエンドです。 ___→ 諦めた目は、太刀川の為だったけど女漁り紛いのことしてたから嫌われたかな、って思ってるから。 自分が運命の人を探しているらしい、っていう噂は知っている。だから太刀川が運命の人が男だったらどうするって言ったのは『___の運命の人が』ってことを理解してたけど、ふと太刀川に合う人が男という可能性にハッとして『考えたこともなかった』。 「俺だったらどうする」で自分の運命の人が太刀川?え?待って、そのセリフ、え?は?期待させるようなこと言うなよ!って感じです。 メンヘラ堕ち回避。 to list |