◎爪 ぱちり。ぱちり。 迅が爪を切る軽快な音をBGMに、嵐山隊が載っている情報雑誌を読む。迅と嵐山は似てる、なんてよく言われるけどそうでもないよな。迅は腹黒確信犯で、嵐山は爽やか天然だし。なんて適当なことを考えていると「あ゛!」と爪切りにそぐわない声が聞こえてきた。雑誌から顔を上げて、声の発信源である悠一を見ると見事なしかめっ面だった。珍しい。 「爪切り過ぎた……読み逃したか……」 神妙な顔で呟く迅の頭を雑誌でぱこりと叩く。んなこと言ってる場合か。痛いよ___さん、と批難めいた訴えの「痛い」は爪か頭か。爪ってことにして迅の手を取ってまじまじと見つめる。右手の人差し指の爪だけ異常に短い、…というかもう爪を切りすぎて一部の皮膚が晒されている。爪の役割を全く果たせていない。バカか。バカなのか。 「利き手の人差し指だったら無意識にでも使っちまうな、絆創膏貼るか。ちょっと待ってろ」 確か救急箱にまだあったはず。迅の頭をひと撫でしてから立ち上がると、くい、とTシャツの裾を引っ張られた。おい、なに早速深爪の指を酷使してやがる。 「…もっかい」 は? と思ったのが顔にも出てたのか、迅は唇を尖らせて察しが悪いと毒づいた。なんだこのワガママちゃんは。 「頭、撫でて」 すり、と額を俺の手にくっつけて強請るものだから、今日は一日中迅の頭を撫でくり回してやることにした。絆創膏は迅が寝た後貼ってやろう。 to list |