子供じゃない




___さんとおれは恋人だ。それだけは間違いないんだけど。


「テメークソ川。なに飲ませようとしてんだ、悠一はまだ未成年だ。んなことも覚えてねぇのかこの鳥頭」

「___さんマジで顔怖い。もうしないからその顔やめてくれ」

「バカだな太刀川ァ。___がいるときに迅に下手に絡むと死ぬぞォ?」

「諏訪、テメー分かってて喧嘩売ってんのか?煙草吸うなら外行けバカ。悠一が副流煙吸ったらどうすんだこの有害物質野郎」

「…ッチ、しゃーねぇな」


タバコを胸ポケットに仕舞った諏訪さんに申し訳なくなる。横で当然だろうという顔をしてる___さんはこの座敷が喫煙用なのを分かった上で言っているからタチが悪い。そもそもおれは副流煙とか気にしないタイプだし、おれと付き合う前は___さんも吸ってたから実はタバコの匂いちょっと好きだったりするんだけど、まあ___さんがダメと言ったらダメだ、うん。


「悠一、ちゃんと野菜も食えよ。あ、グラス空いてんじゃねぇか。なんか飲むか?」

「___さん、海鮮丼はあるか?」

「知るか。テメーは自分でしろ嵐山」


バシンとメニューを嵐山に押し付けて、___さんはまたおれを伺うように見る。色素の薄い、銀にも見える灰色がキラキラしていて、少し眩しい。おれは何も出来ない子供じゃないんだけどなあ。


「んー、おれは大丈夫。___さんこそあんまり箸進んでないけど、何か頼む?」

「俺のことは気にすんな、…っと」


スラックスからケータイを取り出した___さんは少し顔をしかめる。忍田さんから電話だ、悪い。と眉を下げる___さんに手を振っていってらっしゃいと応える。___さんが座敷を出た途端に太刀川さんが横にどすりと座ってきた。ああもう酔ってる酒臭い。


「___さんちょっとカホゴすぎじゃないかー?あんなデレデレ顔で迅贔屓してる___さん見たくなかった!」

「あー、太刀川さん声大きいから抑えて」

「なんだあの『ちゃんと野菜食べろ』って!母ちゃんかっての!」

「ああ、確かに俺が佐補と副に接する感じに似てるな」


太刀川さんと嵐山の言葉にドキリとした。___さんとおれは恋人だ。でも___さんはおれを子供扱いしている。本当は同情で付き合ってくれてるだけで、おれなんか対等な恋人として見られてないのかもしれない、なんて。


「そういえば___さん歩きなのにお酒飲んでないですね。禁酒ですかね?」

「堤ィちったァ考えろよ、あの___が迅を送って帰るっつーのに酒なんか飲むわけねーだろ」

「だからあまり食べてないんだろう。___は食べると飲みたくなるクチだからな」

「風間さんその話マジ?ウケる!」


全然ウケないよ太刀川さん。自分のせいで___さんは飲み会なのに飲まないし食べないなんて、心苦しいにも程がある。おれは確かにまだ未成年だけどもう19で、___さんから見ると子供かもしれないけど、でも、おれは、


「…楽しそうだな太刀川?」

「げっ、___さんいつの間に帰ってきてたんだ」

「テメーいい加減にしろよ。忍田さんからお前の課題手伝ってやってくれって電話だったんだぞ。何呑気に飲んでやがる家帰って課題しろこのクズ野郎」


絶対零度の視線に太刀川さんの酔いもすっかり冷めたようで、縮こまっている。時間も時間だしお開きだ。___さんが今度課題の面倒を見る代わりに太刀川さんの奢りとなった。諏訪さんが項垂れている太刀川さんを蹴飛ばしたのを嘲笑ってから___さんが歩き出す。それを追って横に並ぶと、彼の灰色がおれを映した。やさしい色。


「寒くねぇか?」

「…ん、平気」


やっぱり子供扱い。なんとなく面白くなくて、つい素っ気なく返してしまう。バカだ。今のは寒いって言えば手を繋いでもらえたのに。サイドエフェクトで視えてた未来に内心舌を打つ。 「…可愛くねぇなあ」 その言葉とぎゅ、と握られた手に思わず足を止めてしまう。え、あれ?


「___、さん」

「母親みたいだとか、兄貴みたいだとか酷い言われようだったな」

「え、あー、あれ聞こえてたんだ」

「あんだけデカい声で喋ってたらな。…お前もそう思うか?」


真剣な目で見られて、嘘はつけないと思った。


「おれは、子供じゃないよ」


___さんの手を引っ張って、キスをする。キス自体は何度かしたことはあるけど、おれからは初めてかもしれない。そう思うとドキドキしてきて、っていうかこれいつ離せば、っ、


「っ!、ん、ん…っ、 は、っ、 ふ…ぅ、っ、んむ…っ、」


ぬるりと入ってきた生暖かい舌に心臓が痛いほど煩くなる。未知の感覚が怖くて思わず引っ込めた舌を無理やり絡ませられたかと思うと上顎を何度も擦られて、もう訳が分からなくなる。どうしようどうしようと考えているうちに終わったらしく、ちゅっと可愛らしいリップ音と共に離れた___さんにようやくピントが合う。にやり、綺麗に口角を持ち上げて___さんは笑う。肉食獣のようなそれにぞわりと背中が粟立つ。


「母親が子供に、こんなことするわけねぇだろ?」


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