終わりじゃない




「っ、先輩は私のことをどう思ってるんですか!」


ヒステリックな叫び声に、なぜか私よりも叫んだ本人の方が目を丸くして驚いている。まあ当然といえば当然だ。これは私の仕組んだことであるし、真史は自分が思っているよりずっと私のことを好いているのだから。そしてその気持ちは私も同じではあるが。


「落ち着きなさい。そんなに大声を上げてどうしたんだ。まるで、数ヶ月連絡の取れなかった恋人を問い詰めるような科白だが」


にっこり笑ってそう吐き捨てると、分かりやすく真史は怯んだ。それもそうだろう。数ヶ月前のことだ。年甲斐も無く、恥も外聞も捨てて青臭い告白をしてやったというのに、手酷くフッたのは紛うことなく真史である。よりにもよって、「信じられません」は無いだろう。私のことを、たった数ヶ月連絡が取れなかっただけで家に押し掛けてくる程好きな癖に。

可哀想なくらい青褪めてしまっている真史に、いつもの私ならすぐ許しただろう。そう、いつもの私なら。自分は淡泊な性格であると自負しているが、恋愛面ではそうもいかないらしい。残念だったな真史。私は傷ついている。


「ああ、そうだ先の問に答えていなかったな。私の回答は『ただの大学の後輩』だが、君の考える正答と同じだろうか、是非聞かせてもらえるか?」


「ただの大学の後輩」という言葉に、あからさまに傷ついたという表情をする真史に少し気分が良くなる。我ながらなかなかいい性格をしているが、これも真史のせいといって過言はないだろう。いつも背筋をスッと綺麗に伸ばしている凛とした男が、私の前だけでは迷子の幼子のように不安定になるのだ。これがどうして気にならずにいられようか。ああほら、お前がすぐそんな顔を見せるから、苛めるのがクセになってしまった。


「何も言わないのか言えないのか。その口はお飾りか?さっさと言ってくれて構わないよ、『ただの大学の後輩』か『赤の他人』ってところだろう?」

「わた、しは、…っ」


黒曜石を彷彿とさせる瞳を見つめていると、不意にその美しい瞳からハラリと涙がこぼれた。すこし、ほんの少しだけ驚いた。今までどれほど酷い構い方をしても、真史が泣くことなどなかったから。私は初めて彼の涙を見たのだ。…もったいない。ぼんやりそう思って、引き寄せられるままその雫を舐めとってやると、彼の武骨な指が小さく私の上着を握るのが見えた。 答えはもう、十分だ。


「……すまない。つまらない意地悪を、してしまった」


愛してる。お前が嫌だと言うのなら、形などなくても構わない。あの言葉は忘れてくれ。確かなものなど、お前がいないなら何も意味は無い。


「ちが、うんです、あなたが、わたしのものになるなんて、しんじ、られなくて、いつもみたいに、からかわれたものだと、だから、___さん…、」

わたしを、あなただけのものに、してください



「顔を上げて」

「は、い、……っ、みっともない、ので、あまり見ないでください…」

「ふ、お前がみっともないのは今更だろう」

「っな、」

「そんなお前を、愛しいと思うよ」

「!、っ、___、さん」

「真史、愛している。お前は素直に私も愛している、とだけ答えなさい」

「はい…。私も、___さんを愛しています」


重なった唇に、永遠の愛を誓う。これは終わりじゃない、ようやく始まるのだ。

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