この世には二種類の人間が存在する。甘える人間と甘やかす人間である。 勿論、甘やかす人間がいるから甘えることが出来るのだが、ボクのように積極的に甘えにいって、甘やかすつもりのない人を甘やかす人間にする奴もいる。対してボクの恋人である嵐山准は絶対的に甘やかす側の人間だ。それは三人兄弟の長男というのが起因するのかもしれないし、元々の素質かもしれないが、とかく甘やかすのが得意だ。正直にいうと最初はボクも思いっきり甘やかしてもらうことを目的に近づいたぐらいだし。でも今日は徹底的に准を甘やかすと決めた。なぜって、恋人の新しい一面を見たいと思うのは当然の心理でしょ? 「ということで、今日はとことんボクに甘えてね!」 「えっ、あ、ああ。ありがとう、な…?」 疑問符はいらないと思うけど、まあ准だからしょうがない。とりあえずどういたしまして、とだけ返して甘えて貰うのをひたすら待つボク。 「………えっと…それで、俺は何をすれば良いんだ…?」 爽やかな顔を乗せた首を困惑気味に傾げる准にハッとボクの勘が冴え渡った。そうか、准は常に甘えさせる側の人間だったから甘え下手なんだ…!どうしようこれじゃあ准に甘えてもらえない!いや待て、甘えマスターであるボクがいつもやってることをやってもらえば良いんだ。つまりボクがして欲しいことをボクがすれば准も自然と甘えられるはず!バッと両手を広げると准はビクッとした。小動物みたいで可愛い。 「抱きしめてあげるからおいで、准」 「! ど、どうしても…か?」 「えっそんなにイヤ!?」 ボクだったら迷わず抱きついているところなのに、准はうろうろと目線を泳がせている。なぜ。ショックに打ち震えていると、小さく「いやじゃないけど」と聞こえた。嫌じゃないんだよかった…! ホッとしつつ続きを促す。 「けど?」 「や、だって…ほら、俺身長179もあるし…」 「うん」 「こんな、でかい男が…その…」 「?」 「は、恥ずか、しい、だろ…?」 情けない顔をしてる准を引き寄せて無理矢理抱きしめる。ぐ、ボク准より少し小さいから抱きしめるっていうか抱きついてる感じが否めないな。まあ膝に准を乗せてるから抱きしめてるってことで! 「ボクしか見てないし、ボクはそんな准を可愛いと思うよ」 「っ、___」 「ねえ、どうして欲しい?」 羽みたいなクセっ毛を撫でていると、彼はもごもごと小さく呟いた。 キスして。 「うん」 頭を撫でていた手をそのまま准の綺麗な形の後頭部にやり、首を伸ばして口づける。ちゅ。柔らかい唇はいつもより甘い気がする。もっとしたいけど今日は甘やかす側だからガマン! 「お姫様、次は?」 「………っ、愛してるって、言ってくれ」 准の綺麗な緑の瞳が不安げに揺れている。ああそういえば。いつもボクは好き好き言いながら准にゴロゴロ甘えまくってるけど、愛してるなんて言葉にしたことは今までない気がする。そっかあ、気にしてたのかな。これでもかってくらい想いを込めて、伝えよう。 「准、愛してるよ」 「…おれも、あいしてる」 はにかむ准が可愛くて愛しくて、うん、なかなか甘えられる側も良いかもしれない。ね、准もそう思うでしょ? to list |