素直じゃない




___ちゃんは鈍感で何も出来ないぶきっちょで、そのくせ女の子をたらし込むことだけは上手だからホントにどうしようもない。いいとこなんて顔くらいなものなのに、その顔のせいでドロドロした世界に足を突っ込むことになっちゃってるから長所になってないしもうホントバカ。いつか気付かないうちにたらし込んじゃってた女の子に刺されちゃうんじゃないかなあ。

だから俺は仕方なーく___ちゃんの面倒を見てあげている。だって、あーほら、あれだよ、幼なじみが痴情のもつれの末殺傷沙汰なんて夢見悪そうデショ。だからこれは___ちゃんの為なんかじゃなくて全部俺の夢見の為なんだから。



「___ちゃん!」

「あ、とーる〜」


振り向いたその顔は相変わらずノーテンキにもふわふわ笑っている。いやいや、目の前で女の子たちがバトってるのに何でそんな笑顔…「今日は私が___くんとデートする日だっていってるでしょ!?」「は?だからなに?彼女でもないくせに何言ってんの?」「てゆーか、あたしともデートの約束してるしー」「___は気分屋なんだよ、そんなことも知らないわけ?」あーもう。


「…___ちゃん、今日俺のシューズ買うのに付き合ってくれるよね?」

「うん、もちろん!じゃあ今日はとーるとデートだからごめんねみんな〜」


不満そうだけど俺が相手じゃ文句を言うわけにもいかないみたいで、女の子たちは渋々ってカンジで帰ってった。あーみんなレベル高かったのになんであんなに怖いんだろ、残念だよね。もっとおしとやかで控えめな子だったら、俺もジャマなんてしないんだけどね。


「デートって…男同士で寒すぎ」

「え〜。いいじゃんデート。とーるが恋人だったらおれ嬉しいよ?」

「……ハイハイ。俺は___ちゃんなんかお断りだよ」

「うわーフラれちゃった〜」


クスクスと楽しそうに笑う___ちゃんにフクザツな気持ちになってしまう。俺にフラれても悲しまないんだー、へー。___ちゃんなんか勉強も運動も平均ちょい下で料理も掃除もなーんにも出来ないくせにナマイキ。誰が毎回毎回女の子のバトルを終わらせてあげてるのか分かってないんだからまったく。ちょっとイラッとしたから肩パンしてやろう。 あ、


「女の子の髪の毛、肩についてるよ」

「え?ウソ、どこどこー?」

「そっちじゃ…、あーもう取ってあげるからジッとして」


俺より少しだけ低いその肩に手を伸ばす。茶色の細く長い髪を払ってあげると、その手をがしりと掴まれてしまった。 え? 視線を___ちゃんの肩から顔に移すと、やけに真剣な顔が近づいてきた。 え、なに、え、? ちょ、うそ、まっ、「まって!!」


思わず肩を押すと、あっけなく___ちゃんの顔が離れた。バクバク心臓がうるさくて耳がきぃんとする。いま、なにが、


「…待ったらしてもいーの?」


ガッと顔が熱くなった。


「……す、するって、なに、する気…」


声が震えてる。自分で分かるくらいって相当だろう。きっと鈍感な___ちゃんでも気づいてしまう。気づかれたくない。恥ずかしい。


「………ップ、あはは!顔真っ赤だよ〜。なにされると思ったの?」


カチン。


「っだぁ!!?」

「___ちゃんのバーカ!!」


何の悪気もなさそうに笑っている___ちゃんをぶん殴って逃げた俺は何も悪くない。

___ちゃんにはおしとやかで控えめな子が似合ってて、それは決して俺じゃないけど、でもほら、あれだよ、そんないい子がこんなダメダメな___ちゃんに引っかかるのは良くないから俺が見張っててあげてるだけで、だから、俺はホントに___ちゃんなんて全然好きなんかじゃない!



「……脈アリ、かな〜」


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